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クリエイター名 |
紅白達磨 |
戦闘サンプル
怒号一声。男は叫んだ。巨躯の身体から発せられた凄まじい気に石壁が激しく震える。丸太のような腕が膨張し筋肉の一つ一つが膨れ上がり赤黒い血管が表出する。声と共に男は自分の一回りもふた回りも大きい巨大な鉄球を撃ちだした。 回転し渦を巻き、轟音が鳴り響く。 弾丸のごとく飛来する鉄球。ジェイドはそれを臆することもなく上体を屈め間一髪のところで避ける。そして地を這うように鉄鎖の先にいる男に突出した。 疾風のように駆けてくる。男はそれを阻止すべく二度三度、鉄球へ繋がる鉄鎖を引き動かした。 途端に鉄鎖がうねりだす。鉄鎖とはいえ、その大きさはジェイドの上半身ほどある。並みの人間であればたやすく骨を粉砕されるだろう。蛇のように左右に揺れる鉄鎖。それが突如、勢いよくジェイドの側面から襲いかかった。 ジェイドは跳んだ。石畳の床を踏み砕くほどの踏み切りをつけ、高く舞いあがる。 「甘いわぁぁ!」 しかし男はそれを予測していたかのように腕に巻きつく鉄鎖を引き寄せ、上へと押し上げた。腕の動きに合わせて鉄鎖が地面に当たり、その反動で空中のジェイドのところまで押し上げられる。身動きのとれないジェイドの右腕に鉄鎖が縛り付けられた。 男が左腕で鎖を巻き込んだ。引き寄せられるジェイド。自由な左腕でなんとか身体を守ろうとする。しかし圧しかかる重力がそれを許さない。男は背中を見せるほど上体をひねり構えていた。その右腕には戻された鉄球が握られている。 そして握られた鉄球が無防備なジェイドの懐に容赦なく叩きつけられた。 交叉する両者。懐に叩きつけられた鉄球。痛みを超えて痺れとも感じとれるものが身体を突き抜けた。その尖りが肉を刺し、骨をえぐる。思わずジェイドの口から呻き声が漏れた。普通ならば接触と同時に弾け飛ぶはずの身体はまだ鉄球に張り付いていた。引き寄せられた体、繰り出された鉄球。互いのあまりの速さが両者の離れるのを引き止めているのだ。更に深くめりこんでいく鉄球が肉をえぐり、骨を微塵に砕いていく。 数秒後、均衡し止まっていた力が一気に爆発した。 爆風に巻き込まれた木の葉のように弾け飛び、その身体が石壁に叩きつけられた。 「が……はっ……」 ジェイドは膝をついた。息が吸えず、口からは大量の血がこぼれ落ち、膝元を赤く濡らす。激痛により身体中の神経が麻痺しているのか、身体が言うことをきかない。 「なにを呆けておる。余所見などしておると――」 巻き上げられる空気によって強烈な風が生まれていた。見れば巨大な鋼の塊が巨躯の男の上で円状に舞っている。渦を巻き、周りに存在する全てのものを自らの気流に飲み込むその姿は一種の台風だ。 石壁が、空間が震撼している。覇気と殺意を孕み、荒れ狂う鋼の剛体が危機に滾り立つ空気を掻き毟る。断末魔のごとく泣き叫ぶ空気の悲鳴が聞くものの鼓膜を引き裂いた。 遠心力により一層増大した速度、力。 「怪我するぞぉぉ!!!!」 その二つを乗せて空中を舞う鉄の塊が一直線にジェイドへと放たれた。
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