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クリエイター名 |
紅白達磨 |
サンプル
日も暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。 魔法によって作られた小さな、いつもの光灯が城下のあちこちで建物を照らしている。 二人は広場の噴水のもとにいた。 噴水の水の底には光灯が設置されており、反射した光が噴水の周りを照らしている。 人の姿はない。祭りの締め括りとしてあがる花火をしっかりと見るために大通りのほうへ移動しているためだ。 「あ〜、楽しかったぁ」 リィクの前を気持ちよく歩いていたリネがくるりと振り返る。 「兄様は、どうでしたか?」 「うん……とても楽しかった」 小さい子供みたいに、無邪気に、楽しそうにこちらを振り向いた妹の姿にリィクは目を細めて笑った。 「こんなにゆっくりできたのは久しぶりだ」 自分のことみたいにリネは嬉しそうに笑い、リィクも一緒に笑った。 二人の笑い声が辺りに響く。 暗闇へと広がって、その声が消えた後には夜の静けさが二人を包んでいた。 大通りの明かりの方から聞こえてくる人々の声は小さく、今の二人には届かない。 リネが小さく口を開いた。 「明日……行ってしまわれるのですね」 「……うん」 噴水の底からの光によって白く照らし出された水の波模様がリネの横顔でゆらゆらとゆれている。 リネが笑みを浮かべた。 「私はもう大丈夫です。わがまま言ってごめんなさい。兄様の帰りをお待ちしていますね」 しかし、それが作りものであることにリィクは気付いていた。 「この国のことは私とお父様にお任せください。兄様はなんの心配せず、あちらでしっかりと自分の役目を果たされてください。……だから」 言葉の端が大きく揺れた。 必死に装っていた笑顔がくずれ、リネの目に涙がうっすらと浮かび始める。 「だ……から……」 涙があふれ、それを懸命に見せまいとこらえるリネ。 リィクが静かに歩み寄り、妹の手をとった。 「戻って来るよ、絶対」 リィクは優しく笑った。 手に取った温もりがリネに伝わる。 「ここに、この国に。だから」 リィクはまっすぐにリネの瞳を見つめて言った。 「待っていて」 光に照らされ、優しく微笑むリィク。 リネは口を開いた。 しかし、声を出すとこみ上げてくる感情が一気にあふれ出しそうな衝動が胸を襲う。 リネはその衝動をおしころして、震える唇で言葉にならない言葉を何度も何度もつむいだ。目には今にも頬に零れ落ちそうな涙の海が広がっている。 波模様の光に一粒の涙が宝石のように輝き、リネはほんの一瞬……笑った。 「……はい……」 リィクの腕が妹の肩を掴んだ。 引き寄せられたリネの体が静かに胸にしずみこむ。 「――――」 リィクはそう言って綿雪を包み込むようにそっと抱きしめた。懺悔でもなく、謝罪でもなく、ただ一言、胸にいる女性へ言葉を口にして……。 途端にリネは嗚咽をもらし始めた。 それはすぐに声にかわり、リネはリィクの胸に顔を埋め、泣いた。 堰を切ったようにあふれ出した涙は止まることなく、リィクの服を濡らしていく。 空気を震わせる音がなり、数秒後、花火が空を舞った。 次々と花火の音が鳴り響き、リネの泣き声をかき消していく。 止まらない泣き声にリィクは更に抱き寄せる。 リネはその首元にしがみつき、あふれだす全てをはきだした。 自分にだけ届くその泣き声を聞きながら、リィクはただそっと抱きしめていた。
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