t-onとは こんにちは、guestさん ログイン  
 
総合TOP | ユーザー登録 | 課金 | 企業情報

 
 
クリエイター名  美浦 リンゴ
紅い三日月

紅い三日月   
                        
「おれは最高にイイ女と出会えたかもしれない! 」とバカみたいにくすぐった
いことを言ってみた。
夜、マンションの自転車置き場。パトカーの音がとおりすぎる。
からだはもう動かない。アスファルトがひんやりと気持ちいい。
どれくらいこうしているのかさえ分からなくなってきた。
おれのわき腹に突き刺さった三日月がますます紅くなってくる。
そのようすがあまりに奇麗で、おかしくて俺は泣きたくなってきた。
そうだ。
明日は初めて、あの女と会うんだ。
たった一度だけ、電話ではなしをした女だけど、生身のおれを受け入れてくれ
た。おれも女の孤独を受け止めた。お互いのココロがつながってしまったんだお
れたちは会わなきゃならない。
たとえどんなにブスだろうが、歳があまりにも違いすぎようが、そんなことはど
うでもいい。
あいたい。あいたい。あいたい。
今度こそは、誰かに愛され、愛したい。
独りはイヤだ。
コンビニの店員に、「お箸は?」と聞かれて、「二人分で」とウソつく生活はも
うイヤなんだ。
明日はあの女と会える。金を払わず女を抱くのは何年ぶりだろう。
早く寝なきゃあな。今日はここで寝るとするか…しょうがない。
「待つのには慣れてる」
という女のことばが、ぼんやりと頭に浮かんでは消える。
明日、おれは女を待つだろう。そしていうんだ。
「これからは、おれが君を待つよ。」って。
そして、ふたりで笑うんだ。いやなこと全部忘れるくらい、でかい声で。
そんなことを思いながら、おれは静かに目を閉じた。
紅い三日月は・・・痛みも感じなくなったおれを…やさしく包んでくれる……。

こんな幸せな夜ははじめてだと、おれは思った。
    

                                  終

 
 
©CrowdGate Co.,Ltd All Rights Reserved.
 
| 総合TOP | サイトマップ | プライバシーポリシー | 規約