t-onとは こんにちは、guestさん ログイン  
 
総合TOP | ユーザー登録 | 課金 | 企業情報

 
 
クリエイター名  若葉 玲々
第三者の視点による描写

第三者による描写(一部を抜粋)


 聖なる場所。どこからか、高い場所から落ちた水滴の、定期的に地を穿つ音が、祈りの間全体に響き渡っている。天井は高く、広さもある場所に、長イスが何個も並べられ、中央より奥、他よりも高い場所には台座がある。
 その様子は全体から、神聖な雰囲気を感じさせていた。
 ハムエラン神殿の中を進み、移住区を過ぎ、さらに奥の方へ行くと礼拝堂より奥の間、限られた者しか出入りする事のできない、祈りの間へと辿りつく事ができる。
 そこで少女が一心に祈りを捧げている。鬼気迫るものではないが、何人たりともそれを邪魔する事は出来ぬということを感じさせるその姿。
「……」
 祈りにおいて、何かを口にする事によってその言葉に力を与え、しいては自らに力を与えることができる。しかし、少女は何を口にする事もなく、ただただ静寂と共に祈りを捧げている。
 祈りが終わったのか、少女がすっと瞼を開くと、それを見計らったように後ろから声がかかった。
「ムエラ様、祈りの儀、お疲れ様です」
「メファイ大司教」
 ムエラが振り返ると、そこにはふくよかな身体つきをし、顔には穏やかな笑みを浮かべた男が礼をしていた。
「いつも思いますが、祈りを欠かさぬその姿勢、感服致します」
 ハムエランの中において、ムエラに次ぐ地位を持つ、大司教。礼拝堂へと訪れた信仰者に教えを説くのも、神殿では大司教自らが行っている。
 大神殿には百名以上の者達が、なんなく生活できる程の広さを持つ移住区がある。だが、実際に大神殿に住んでいるのは、時々奉仕にやってくる者を省いたら、今やこの二人しかいない。
 掃除など生活に必要なことはムエラを含め、修道の一環として自らが行っており、大神殿においては雑多をする者を必要とはしない。かなりの広さではあるが、日数をかけることによってそれを行い、その間に祈りの儀などを済ますのだ。
「当然の事をしているまで。そんな褒めの言葉を与かるようなことでもありません」
「いえ、人とは楽な方へと身を落としてしまいがちなものです。ムエラ様と比較するのは失礼かもしれませんが、ただただ感心しているだけなのです」
「……私といえど、元は人の身。今はハムエラン様の御加護を頂いており、ムエラと名乗っておりますが」
「なのだから、人にも思いさえあれば可能である。そう仰りたいのですね」
「ええ」
 そのような会話を交わしつつも、二人は祈りの間を退出、礼拝堂を過ぎて中庭まで来ていた。そこまでは特に神聖な場所であったからか、穏やかな顔をしていたムエラだったが、中庭までくると、メファイを鋭い視線で見つめた。
「本題は何です、メファイ大司教」
「……」
 ムエラの視線に若干、眉をぴくりとさせたものの、特に顔色を変えはしなかった。
「これは申し訳ございません。実は先日、コト国において動きがあったのです」
「コト国で……?」
 その報告に、今度はムエラが首を傾げた。
「国自体が堂々と動いた、というわけではありませんが、ある人物が単身、ルマイを出立したとのことで」
「その者とは?」
「アフィア=オセフムです」
 驚きを隠そうともしなかったのか、隠せなかったのか、ムエラは目を見張った。
「お気づきのように、例の処刑された罪人、『ハムエランの使徒』であったカミナ=メルドゥサの娘です」
「……」
「公にはオセフム等と言う名をつけ、それを誤魔化してはおりますが、カミナの娘に間違いはないでしょう。そのような者が一人、ルマイを出立してゆく。何かあるとは思いませんか?」
 ムエラは頭の中で状況を整理しようとしているのか、頷きもしなかったが、手振りだけでメファイに話の続きを促した。
「察するに、何かの諜報活動として派遣されたと思われます。そしてなにより、向かう先はここ、ハムエラン神殿」
「何故そうとわかるのです」
「この情報は若干、遅れておりまして。実際にはカミナの娘がルマイを出立したのは、一週間程前です。そして、そこから向かった先は、港町フェイラン」
「フェイラン……。ならばそこから船に乗るのではないのですか?」
「いえ、そのような動きは見られないとのことです。何か行く途中でも、各町で情報を聞き出すなどの事をしているようで。フェイランに寄ったのは港町という性質上、情報が最も集まりやすく、また、ここハムエラン神殿に向かっているということを隠すためだと思われます」
 あまりにも詳しすぎる情報に、ムエラは疑問を覚え始めたが、最後まで聞こうとそれを口に出す事をやめた。
「フェイランから神殿に向かうには、大きく船で迂回し、近隣の村で下船、徒歩でここまで向かう。もしくは険しい山道を越えてゆくか」
「その通りです、ムエラ様。ならば絶対に山道を越えてくるでしょう。そちらの方が、自分の動きを隠す事が容易いですから」
 先程からのメファイの口調は、アフィアが神殿へ向かっていると確信しているように見える。その根拠がどこから来るのか解りかねたムエラは、率直に問うた。
「メファイ大司教、一つ教えてください。何故そこまで、アフィアという者がここへ向かっていると断言できるのですか」
「……簡単なことです」
 聞かれる事を予想していたのか、やや口元を歪めた。
 
 
©CrowdGate Co.,Ltd All Rights Reserved.
 
| 総合TOP | サイトマップ | プライバシーポリシー | 規約