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クリエイター名 |
荒井 健佑 |
サンプル
黒い翼を広げて飛び立て。
闇夜に紛れるほどの漆黒を湛えた翼に、月の光を受けた銀髪が美しく映える。 穏やそうな甘いマスクには、ごくうっすらと穏やかな微笑が浮かんでいた。 顔を覆うほどの長い前髪に隠された狂気を秘めた蒼い瞳が鈍く光って、彼のまとう雰囲気が一瞬にして残酷なものへと変わった。 「また今日もひとり………。」 彼は誰にも聞き取れぬほどの声でひとりごちると、煌々と光を放ち続ける月を見上げ小さくため息をつく。 ―――――搾り出すように、さも苦しげに。 鬱陶しそうに髪をかき上げた手と反対に持つのは、これ以上になく鋭く磨きぬかれた大きな鎌。 その姿を見たものは、三日以内に死ぬ―――――。 彼は人々がそんな噂をしているのも知っていた。 何も知らぬ、何も知ろうとしない人々の言うことなど、気に留める余地もないと冷たく切り捨てるだけだったが。 自分には協力者がいればそれでいい。
(割り切っているようで、本当は少しだけ寂しいのかもしれない)
そこまで思考を巡らせて、馬鹿馬鹿しいとはき捨ててから視線を足元へ戻す。 ここは東京上空。 ひとりぼっちで浮かぶ空の上の空気は、澄み切っていて不純物が極端に少ない。 ここからまたごみごみとした街に戻らなければならないから気が重いんだと、不安定になっている感情に理由をつけた。 わずらわしい感情など持っていても仕方ないと、とうの昔に捨て去ったはずなのに。
頭の隅を掠めるのは、つい先日まで相棒だった碧眼黒髪の長身の男の面影。 たった数ヶ月を共にしただけなのに、ひとりごちた自分に言葉返す相手が居ないことがこんなに寂しいと感じるなんて。 彼が投げ返してくるであろう乱暴な言葉の数々を思い浮かべては、小さく笑みを零した。 嬉しい、誤算かもしれない。 彼に出会えたことで、また【敵】に立ち向かう口実ができた。
さあ。 次に出会う【協力者】はどんなヤツか。 それはもしかしたら、自分にとって最高のご褒美なのかもしれない。
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