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クリエイター名  日高 翠
サンプル

「サボリの屋上、青い空」

ぼくの生きる世界は、丸くて小さな青い星のひとかけら。
ちっぽけな島の上だ。
さらに言うと、都心と呼ばれる場所から離れた街。
家の玄関からは海。後ろには山が見える。
世界中にいくつでもありそうで、
でもここにしかない場所にぼくは住んでいる。

ここがぼくの世界。世界で一つの小さな世界だ。

学校の屋上、チャイムを無視して祐一は大の字になって空を見上げていた。
快晴だ。夏前の気候は穏やかで、潮風が心地良い。
無心に空を見上げていた祐一の視界を、友人の顔がさえぎった。
「どこにおるんか思うたら、屋上でサボりか」
上から見下ろして、ニヤリと笑う友人はハキハキとした大阪弁で言った。
「そういう、長瀬もサボりだろうが。俺なんて探してないで、授業にでろよ」
「あ、それ自分。サボりのご身分で言えたことちゃうやろ?」
確かにと祐一がクスリと笑うと、長瀬も笑って隣に同じように寝そべった。
「だってな、祐一おらへんと授業つまらん。祐一しか喋る奴おれへんねんで」
授業中に喋るも何もないだろうと思いながらも、祐一は再び空を見ながら言う。
「おまえの関西弁なおせよ、そしたら友達できるって。俺と友達でいないほうがいい」
祐一はさらりと言った、考えたり深い意味はない。自然に口から出てきたのだ。
祐一は考えて、喋ることをしない。もしかしたら出来ないのかもしれない。
直球ストレート、そんなこともあってか友達は少なかった。
「大阪弁はほっといて。大阪弁なおして友達できたら差別やろ?
友達ならんほうがいいとか、なんでそんなこと言うんや」
そうか差別か。雲がゆっくりと流れる「なんで」と言われてまた直球。
「孤立するから。知ってるだろ、俺友達少ないの」
「ええよ、孤立しても。転校生の定めやと思うわ」
「定めってなんだよ」
「定めは定めや、運命いうやつかも知れへんなぁ」
なにが運命だよと祐一は、あきれ気味だったが長瀬は楽しそうだった。
「俺、祐一のこと好きやわ」
「俺、そういう趣味ないし」
「あのな、俺かてそんな趣味ないわ。友達としての好きとか、人間としての好きとか」
穏やかな雲が流れる静かな平日に
「俺たち、なに喋ってるんだろな」
祐一がぼんやりとしながら言った。特に意味はない。
「青春の話ちゃうの?屋上で空見上げながらいうたら、青春の話しかないわ」
「サボりで青春か。ってか青春の話ってなんだよ」
「わからん。たぶん考えるもんちゃうんやで。自然に喋れるから、青春の話なんや」
「そういうものか」
「そういうもんやって、だから祐一としか青春の話でけへんわ」
強い風が吹いて潮風が鼻につんとする。
ガラガラガラと椅子を引く音が一斉に聞こえた。
「俺だけか。俺ってすごいな。じゃあ、昼飯のパンでも買ってきてもらおうか」
チャイムの音が空に吸い込まれていく。
「すごいで。でも調子にのったあかんわ。一緒に買いに行くで、ほら」
また視界が遮られた、見下ろされて祐一は仕方なく立ち上がった。
「なぁ、なんで屋上におったん」
空を後ろにして階段を降りる。
「あ、もしかして俺と青春の話したかったからとか」
また呆れて、でも祐一は笑いながら言った。
「調子のるなよ。ただ、屋上が好きなだけだ」
「そうやな祐一やもんな」
長瀬は一人で納得している。
「どういう意味だよ」
「そのまんまや」

意味もないのにクスリと笑って階段を降りていく。屋上と空に見送られながら。

END
 
 
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