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クリエイター名 |
クレト |
サンプル
「なんということだ・・・」
カリファラン国の王子、ヒエンが成人の審判を受けたが その身は大きく傾き、がくんと地にひれ伏した ヒエンの体を悪しき闇が纏わりつき始める それと同時に、周りに集っていた神官たちがどよめく
「これは・・・破滅のエネルギーではないか・・・」 「まさか、聖女の婚約者が魔王の生まれ変わりとは・・・」 「この国が滅びてしまうぞ・・・」
一向に体を起こす事のできないヒエンに 隣で立っていた、聖女シルフィは駆け寄ろうと手を伸ばした
「ならぬ!!」
ランドールの国王である父に怒鳴られ シルフィの体はびくりと止まる
「なぜですか・・・お父様、ヒエンが苦しんでおります・・・」
「お前もわかっておるはずだ・・・例えカリファンの跡取りといえども 【魔王デュラハン】の生まれ変わりであれば、生かしておくことは出来ぬ」
「ヒエンは今まで、破滅を願った事はありません・・・ ましてや、人の欲望野見込まれるような者でもありません!!」
「人の心を信じるとて、人の運命を変えることは不可能だ!! いずれ、ヒエンはその人格すらも破滅の欲に侵されるであろう!!」
「いいえ!!そんなことは決して・・・・!!!」
その時だった 静かにヒエンはその体を起こす どこか重りがかけられたような体を 一つ、今一つ、確かめるように立ち上がる
「・・ヒエン・・・・・?」
ゆっくりとあげたその瞳には 誰よりも真っ直ぐで、強い意志が現れていた
「例え俺がデュラハンの生まれ変わりであろうと 俺の名がヒエンであり・・・・・ カリファランの王子である事にも変わりは無い!」
ヒエンが両手を広げ、ぐっと力強く握り締める すると纏わりついていた破滅のエネルギーが 溶けるように、その姿を消した
「この力が災いを成すものであると言うならば・・・全力で封じ込めてみせる!!!」
あちこちから驚嘆の声が上がる デュラハンの邪悪な力は、デュラハン自身でさえ抑えられないと 言い伝えられてきたものが、今目の前で主の意思に従ったのである
「それが、お前の精神力の強さであれば・・・見事な話だが」
今まで、一言も発しなかったヒエンの父親 カリファランの国王がすっと立ち上がった
「未だ、生まれたての赤子の力であるというならば、いつかは成長しようぞ」
生まれたばかりの力はあまりに未熟だ 故に、時が経てば経つほど成長を遂げ かつての魔王の力をこの世に知らしめる事になる
そうなる前に・・・ その芽を早めに摘んでおかねばならない
カリファラン王は、左手をすっと掲げた
「この時を持って、我が息子である王子ヒエンは亡き者とし そこにいる少年を罪人として、罰する・・・後は好きにするがいい」
「カリファラン王!?」
シルフィの叫び声が響くも、空しく 周りを囲む神官達は次々へと結界を作り出す ヒエンへの総攻撃の準備が始まったのだ
「・・・シルフィ・・・・・・」
小さな声だったが その声は確かにシルフィの耳を捉えた
「聞いたか・・・?親父が“好きにしろ”だとよ」
「笑ってる場合じゃないわ!?」
「わからないのか・・・・?」
「な、何を・・・」
「はじめから親父は、俺に対して“反対”なんて一度もしなかった」
すべての悩みが吹き飛んだような そんな清々しい微笑で、ヒエンは父の姿を見つめていた そして、父もまた 「仕方のないやつだ」と言わんばかりの笑みを浮かべていた
「―――――自由になれ、と言ってるんだ」
シルフィの目の前にヒエンの手が差し出された 今まで見たことのない優しい笑顔が見える
「俺はヒエンであることに変わりはない ・・・・・・世界の真実が知りたいんだ」
一緒に見てみないか
その言葉を聴くより先に シルフィはその手を取った 同時に、二人は走り出す
「まずは現状突破だ!!」
こうして、時が始まった
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