|
クリエイター名 |
クレト |
サンプル
どこまでも続く暗闇の中 ぼんやりと浮かぶは、オレンジの街灯 微かに映るレンガの道筋は 恐怖におびえた男たちを走らせる
♪お前は私の名前を知っているか?
闇の中で溶け込むように響くは歌声 低く、ざらりとした声で 人間の中の恐怖という恐怖を湧き上らせる その声に幾人の者が、底知れぬ地獄へ引きずりこまれたことか
♪痛みも悲しみも死することも知らぬ
今宵もまた、すべての光を奪われた人間が 断末魔と共に、死へと誘われた
♪私の名は“不死身の道化師”
嗚呼、またつまらぬ命を奪ってしまった つまらぬ命の甘美なる叫び声が聞けてしまった 煉瓦の上に広がる赤い水溜りよ これこそが私の生ける意味となるのだ
深い闇の中で道化師の笑い声があがる 銀色の仮面に隠されたその素顔が どんなに喜びの表情を作っているであろうか 誰も知ることはない そんな道化師の名前を 誰かが知ることもない
幾年とその月日が流れようものか 恐怖の殺人鬼“不死身の道化師”の名が知れ渡るころ
道化師の前に“それ”は突如現れた
金髪に深蒼の瞳 見るも驚くその美麗な顔立ちは 人形を思わせる・・・少女
だが、その身は木製 体の節は球体で作られ 幾本もの糸で操られる人形
決して人形ではない、生ける彼女は 月明かりの中で、観客を沸かせる踊り子 澄んだ歌声を響かせる、見世物
月の無い夜は倉庫で人形のように眠りにつく
実父の研究に人体実験されたとは気づかぬ 哀れな少女人形よ
♪お前は私の名前を知っているか?
醜い声に、美しい声が返ってきた
♪この夜を自由に駆け巡る幸せに何の名が要りましょうか?
少女人形よ、苦しいか? 糸につながれ、自由を奪われ そなたが私に答えをくれた代わりに あなたに自由を与えましょうぞ
少女の体から人が切れた 人知れず、重いはずの体がふわりと浮かび 夜空の下を駆けていく 道化師がようやく止まったのは 街が一望出来る丘の上
私はこのような美しい場所で踊っていたのですね なんと、幸せなことか・・・・・
ガラスの涙が落ちる 道化師はそのガラスに触れてしまった それが恋のぬくもりだと気づかずに
道化師さん、ありがとう・・・私はこれ以上の幸せはいりません
道化師の血を飲めば 少女も人形のまま生きていける 不死身の体を持つことが出来る
己が愛を取るか 汝の喜びを取るか
だが、少女は体からの自由を望んだ
そのまま、夜は明け、日が昇る 冷たくなり、動かなくなったその体を 泣きながら、道化師は抱きしめた
これが恐怖というものならば 私も自由になろう
そなたの温もりを忘れる前に そなたの歌声を忘れる前に
愛という名の幸せを忘れる前に・・・
|
|
|
|