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クリエイター名  志築 仁
浪漫部

  浪漫部

 とある高校の廊下。大勢の少女たちが見守るなか、一人の一年生男子が、二年生の少女に愛の告白をしていた。
 彼がこんなところで告白しているのには理由がある。告白相手の少女――名前を二ノ宮亜由美という――にラブレターを出したのだが、全く返事を貰えない。呼び出してみたが、来てくれない。故に、直接行動に出たのだ。自分の気持ちをはっきり受け止めて貰うために。
「君の気持ちは嬉しいよ」
 亜由美の言葉に、少年は胸を高鳴らせる。無視されていたわけじゃなかったんだと思った。亜由美の元へ届くラブレターは数が多すぎて、ほとんど読まれることがないのだという。きっと、自分のもそうだったのだと。ちょっと運がなかっただけだったのだと。
「じゃ、じゃあ!」
 勢い込んで尋ねる少年。周囲の取り巻き少女たちも固唾をのむ。たくさんの取り巻きの前で告白するのには勇気が要ったけれど、常について回っているのだから仕方がなかった。一人きりにならないのだ。
 しかし、勇気を出してよかったと、少年は思った。好感触。問題は、告白成功した場合の取り巻きの反応。祝福してくれるだろうか?
「嬉しいけれど、お断りするよ」
 少年の早合点による皮算用は脆くも崩れ去った。
「ど、どうしてですかっ!」
 少年の疑問に、亜由美はスッと横にあった扉を指差す。正確にはその扉に書かれたプレートだ。『浪漫部』と書かれている。
「僕は今、浪漫を求めているんだ。だから恋愛にうつつを抜かす暇なんて無い!」
 その言葉にキャーキャーと騒ぎ始めるギャラリー。お姉さま素敵ーとか、お姉さまに普通の恋愛なんか似合わないわーとかいう声が聞こえてくる。
 制服のスカートさえはいていなければ、美少年として問題なく通じる亜由美は、口調、仕草、恋愛なんか興味がないというストイックさが、男女問わず人気になっている。とくに取り巻きに見られるように、女子人気が高い。
 がっくりとうなだれる少年を尻目に、亜由美は『浪漫部』というプレートが貼られた扉の中へと入っていく。それについていく取り巻きの少女たち。彼女らも、一応部員だったりするのだ。

「二ノ宮!」
 部室の中では、亜由美を仁王立ちで亀山部長が待ちかまえていた。
「なんですか部長?」
 小太りの部長に対し、すらっとしたスタイルの亜由美が目の前に立つ。背丈は同じくらいだった。
「もっとロマンスを求めないか! 年下の少年から告白されたんだぞ!」
「はあ。そうですね」
 とくに関心はなさげの亜由美。何度も同じようなことをいわれ、飽きている。
「男の俺から見てもかわいい感じだったぞ。心憎からず思っているんだろう?」
 部長は言動が古くさい。
「まあ、そうだけど」
「そうだろう。ここはロマンス部、ロマンスを求めるのが……」
「部長、ここは浪漫部であってロマンス部じゃありません」
 何度も何度も訂正してきた文句を、根気強く亜由美は述べた。
「……去年まではそうだったが、今年から!」
「なってない」
 きっぱりと否定する。
「いいじゃん、似てるんだし……」
 口を尖らせる亀山部長。子供っぽいが、高校三年生。
「言葉は似てるけど、それは別物だよ。ロマンスに比べ、浪漫はもっと血湧き肉躍るものなんだ!」
 美少女がいうには似つかわしい単語だったが、拳を振り上げた亜由美がいうと似合いすぎているほどに似合っている。ギャラリーの少女たちの声援も後押しする。
「うーっ、部長だぞ、俺は!」
 部長権限を振りかざす亀山部長に、亜由美は人差し指を部長の目の前に立てた。
「こんなことはいいたくないけど。正直な話、部長と僕と、どっちが実力的に上だと思う?」
 三年生で部長である自分。二年生で男女問わず人気者の美少女。例えば部内で多数決を取ったらどうなるか。ちなみに、亜由美の取り巻きは部員数の8割を占めていた。
 結論、まともに戦ったら勝ち目はない。
「ううううううう」
 負けを認め、ゆっくりと振り上げた拳を下ろす亀山部長。
「よろしい」
 完全に上から目線になった亜由美。
「俺は……自分で恋なんてできないと思うから……せめて周りの人間が恋しているところを見てロマンスを感じたかっただけなのに……」
「……それは変態だと思う」
 ぼそっという亜由美。
「ええっ!?」
 愕然とする部長。ささやかな夢さえも否定されてしまった。それも女の子に変態呼ばわりされて。
 崩れ落ちる部長だが、その部長の肩を抱いて、亜由美がささやきかけてきた。
「恋なんてできないとか言ってるけど、本当は好きな人がいるんだろ?」
 自分の恋愛には興味はないが、他人の恋愛には興味がある。浪漫の中には恋愛要素もあるからだ。それに、亜由美も女の子だから、ロマンス要素は嫌いじゃない。
 ただ、自分が女だという――美少女だという自覚に乏しいため、それと英雄譚に出てくる少年に憧れているため、このような誤解を招くような行動になってしまう。
「……実はいる」
「なら自力でロマンスを掴んでみせなよ。応援するよ」
 抱いていた部長の肩を離し、近い方の肩をポンポンと叩いた。
「ああ……」
 すっくと立ち上がり、亜由美に向き直る部長。スーッと息を吸い、叫んだ。
「二ノ宮! お前が好きだ!」
 固まる空気。ポリポリと頬をかきながら亜由美は言う。
「……ごめん。それは応援できない」
 部長は泣きながら部室から飛び出していった。



浪漫部 2

 部室の隅で体育座りをしながら、亀山部長はスンスンしていた。
 衝撃の告白のあと、微妙な空気になった一同は手分けして部長を捜索。亜由美が部室に戻ろうというと、素直に従って戻ってきた。隅っこで座り込んでしまったが。
 そんな部長にかける言葉もなく、亜由美は今日の活動内容についての会議を開いていた。
 議題は、天体観測の方法について。ハッブルの写真がいかに素晴らしいかについて熱弁をふるっていた。
 そんななか、部長の隣に来る少女がひとり。亜由美のせいで、あるいは亜由美のおかげで浪漫部は女子生徒比率が凄まじく高いが、亜由美のそばをひとときでも離れる女子は珍しい。
 そんな珍しい女子部員のひとりが、この?ア澤琴乃である。亜由美とは違い、女の子らしいかわいさを持つ、小柄な少女だった。
「亀山部長。大丈夫ですか?」
「俺は今、ハートブレイク中なんだ。大丈夫なわけ無いだろ」
 すねているだけで、結構大丈夫そうに見える。
「大失恋でしたからね。自爆とも言いますけど」
「……放って置いてくれ」
 といいつつも、部長はかまって欲しい。だから、スススッと、密着せんばかりに近づいてきた琴乃の気配にどぎまぎする。
「でも本当は、亜由美ちゃん、照れてただけなんだと思いますよ」
「照れてた?」
「人前で、誰が好きとか言える子じゃないんですよ」
 琴乃の息が、部長の耳をくすぐる。
「それって、本当は俺のことが好きだって、そう言う話なのか?」
「ええ、そうです」
「……ツンデレ?」
 人の目があるから、ワザと辛く当たってしまう。告白されても断ってしまう。亜由美がそうだというのか。
「萌えでしょう?」
 ふふふと笑う。
「……嘘だよね?」
「嘘ですよ」
 それまでと同じ口調で、あっさり否定する琴乃。
「あー! ?ア澤の言うことは全部嘘だって分かっているのに! ついつい期待してしまう俺がいるぅ!」
 部長は立ち上がり、頭を抱えつつ叫んだ。琴乃が部員になってから一年強。彼女が言ううまい話が本当だったことはない。
 亀山部長もそれは分かっているのだが、信じたくなるような内容のことばかり言うので、ついつい引っかかってしまう。ただひとつの救いは、嘘かと聞けば、ちゃんと答えてくれるところだけ。
 嘘だと分かっているのに期待を持ち、彼女に希望を打ち砕かれる男子生徒は数多い。琴乃は女子を狙わず、男子ばかりを狙い打ちにしていた。それも、嘘をつかれても女の子に反撃できないような、優しい男子ばかりを。
 亀山部長は、そのなかでもトップクラスに攻撃しやすい相手だった。何度やってもすぐに信じかけてくれるし、すぐに嘘だと気付いてくれるし、怒って手を出してくることもない。理想的な相手だった。
「部長! 静かに」
 離れたところにいる会議中の亜由美が、突然大声を出した部長を叱る。さっきまでの気まずい感じはもう無かった。
「……はい」
 また体育座りをする部長。
「怒られちゃいましたね」
 また耳元で囁き始める。
「……なんでこんな嘘をつくんだ。毎日毎日」
 さすがに怒っているのか、囁きだけでは反応しない。
「好きな人には、意地悪したくなっちゃうんですよ」
「好きな人……?」
 意地悪されているのは自分。そうすると、好きな人というのは。
「素直になれないんです、私」
 部長の首筋をツーッと撫でる。ゾワゾワと、悪寒のような快感のような、痺れが走った。
「嘘だよね?」
「もちろん嘘です」
 スッと距離を取る琴乃。微笑を浮かべている。部長はちょっと泣きそう。
「……俺にロマンスが来るのはいつの日かなあ」
「永遠に来ないと思いますよ」
「これも嘘だよね?」
「これは本当です」
 部長は無言で、滂沱と涙をあふれさせた。琴乃は部長にポケットティッシュを笑顔で渡し、会議中の亜由美のそばへと戻っていった。





なぎ評価:甘いかと思ったらしょっぱかった。ちょっと面白い。70点。テンポの良さと区切りがよかった。設定はぬるいが、即興ならこんなものだろう。
オープニングの少年の絡みがもう少しあってもよかった。終盤出てきてもよかったんじゃないか。
課題として、男の子っぽい女の子のぶっきらぼうなセリフからも、女の子らしさがにじみ出るようになるといい。
ギャラリーの女の子たちが、居るような居ないような微妙な感じになっているので、しっかりと描写する。
 
 
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