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クリエイター名 |
Rei |
海洋都市『アタラクシア』
海洋都市『アタラクシア』
西暦1000×年。 これははるか未来の話である。 地球の文明や発達は、もはや人類の英知を超えるものとなっていた。 そして、人々が暮らす現実世界とは別な空間が新たに生まれた。 人々は、コンピューターにアクセスし仮想世界、つまり『コンピューターワールド』にログインし 自分だけの生活をすることができる。 体に伝わる感覚はまさに現実世界そのもので、触れるもの、食べるもの全てがリアルな世界を作り出す。 ある者は冒険者となりコンピューターワールドを旅し、またある者は商人となり物を売り、 またある者は結婚し大切な恋人と幸せに暮らす者までいる。 コンピューターが作り出す完璧な仮想現実の中で、人々は快適に暮らしていた。 中には、苦しい現実世界を捨て、仮想現実の世界にのめり込む人もいるという。
カナコもまたその中のコンピューターワールドに暮らす1人の『住人』だった。
チチチチ・・・・・
チチチチ・・・・・
静かな部屋の中で時計が鳴り響いた。
眩しい太陽が昇る。朝がやってきのだ。 「んん・・・。」 眠たい目をこすりながら、カナコは片方の手で時計を止めた。 友人に紹介され、コンピューターワールドに来てから早三ヶ月。 ほとんど学校にも行かず、毎日ログインばかりしていた。 既に中毒である。 「あー。もう朝か・・・。」 独り言を呟きつつ、ベッドから起き上がり服を着替えた。 昨日夜遅くまで、ミニゲームで遊んでいたせいか体がとてつもなく重い。 「今日の予定は・・・」と自分のスケジュールを確認しようとした時だった。
プルルルル!
電話が鳴り響いた。 こんな朝早くに誰からだろうと思いつつ、受話器を取る。
「もしもし?」 「もしもし、カナコ??」 その声の主は親友のマイからだった。 マイとは学校も一緒で、このコンピューターワールド上の同じ世界に暮らしている。 「あら、マイじゃない。こんな朝早くにどうしたの?」 声の調子をあげつつ話ながら、コーヒー用のコップを取った。 「こんな朝早くにごめんね。ちょっとカナコに知らせたいことがあって。」 「何なの?」 「昨日新しく開発されたばかりの新ステージ『アタラクシア』って知ってる?」 「ああ、昨日ニュースで話題になってた都市のことでしょう?」
『アタラクシア』とは、まだ一部の限られた人しか入場できないゲーム上の新しいステージのことだ。 かなり広範囲のステージで、電脳ニュースでも大々的に取り上げられている。 中でも、この都市は隠された「空飛ぶ謎の浮遊大陸」があるいう設定で冒険者たちの興味をひいているようだ。
「その『アタラクシア』がどうかしたの?。」 淡々とした声でカナコは返事を求める。 「実はね。当たっちゃったんだ。私」 「何を?」 いったん間を取ってから、受話器越しから嬉しそうな声でマイが話す。 「その『アタラクシア』限定入場用のパスポートが当たっちゃったの!」 「えぇ!!」 思わず声をあげてしまうカナコ。 私は驚きを隠せなかった。 なぜなら、その入場できる人というのが 政治界や一部のお偉いさんぐらいしか入場ができないと噂で聞いたことがあったからだ。 「何それ、凄いじゃない!」 「カナコ羨ましいでしょう〜?」 マイの自慢げな声が響いた。 「いいなぁ。まったくこの子は。」 「明日からステージに行けるらしいから行って来るね。」 「行ってらっしゃい。気をつけてね。」 「うん!」
そう言って受話器を置いた。 「まったく、どこでそんなパスポートを手に入れたんだが。」 呆れながらそう言いつつも、カナコの表情は明るい。 ふと見ると、ポットに入れてあったお湯はいつの間にか冷めてしまった。
『アタラクシア』
海洋都市で、都市のほとんどが水に漬かっている不思議な都市だと聞いたことがある。 その中で「浮遊大陸」。 どういう島なのだろうか。 そもそも『アタラクシア』とはどんな都市なのだろうか。 とても気になる。
「私も入場用チケットがあればな・・・。」 ――『アタラクシア』をマイと一緒に冒険できるのに。
そう思っていた時。
パラリ・・・・。
「?」 何かが上から落ち、カナコの頭上にあたった。 何だろう。 そう思いつつ下を見る。
すると一枚の封筒が落ちていた。 「何だろう、コレ。」 おかしいな。 さっきまで何も封筒らしきものは置いてなかったのに。
疑問に思い封筒の中身を開封した。 「なになに、『海洋都市アタラクシアご招待状』・・?。」 ――何っ!! 一瞬驚いたが、冷静になって再び同封されていた手紙を読み上げた。
「えっと、 『この度は海洋都市アタラクシアへの実験参加要請にご協力頂けることになり 大変光栄に思います。 入場用のパスポートを同封させて頂きました。 日程につきましては下記に書いてある会場が集合場所となります。 遅れずに集合下さいますよう宜しくお願いします。
■日程■ 1月22日(木) ■会場集合場所■ アタラクシア城、ダイヤモンドの間 ■時間■ 1時より
尚、遅れた場合参加は不可とみなします。 時間厳守でお願いします。 では、貴方様のご参加、心よりお待ちしております。
海洋都市『アタラクシア』責任者シドウより。』
「へっ?」 思わず息をぬいた間抜けな声がでてしまった。 実験、ご協力? 何が何だか意味が分からなかった。 そもそも、手紙がどこから落ちてきたかも分からないのに。 「この手紙は私宛ではないかもしれないけど・・・。」 静かな部屋で1人で考えてみた。 この手紙はどこから来たのだろう。 前に上の棚を掃除した時は、このような紙はでてこなかったハズだ。 とすると、一体この手紙は何だろう。
しかし、参加目的がどうであれ噂の『アタラクシア』へ行くことが出来るらしい。 そう考えると急に胸がワクワクしてきた。
今日は1月21日。 日程によれば明日が集合時間となっている。 「怪しいけどこれは・・・チャンスかも?」 責任者の『シドウ』。 謎の実験。 そして『アタラクシア』
一体何の事かよく分からないが、とりあえず行ってみる価値は十分ありそうだ。 同封されたパスポートを見ながら、カナコは思った。 「よし、明日行ってみるか!」
しかし、この後にこの『実験』が 私の運命を大きくかえることになるとは
その時は何も予想すらつかなかったのだった・・・。
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