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クリエイター名  からくりあきら
今はなき故郷

サンプル小説2
題名:今はなき故郷



 故郷はどんな所だったかって? そんなのたった一言だ。雪の多い所だったよ。
 ちょっとミもフタも無かったか……そうだなあ、確かに雪の話はあんたにとっちゃ珍しいのかも知れないな。
 あんた、俺の故郷がのどかに雪遊びが出来るような所だとでも思ってんのかい。とんでもないね。雪が降ったらまず雪掻きだ。大人の身長の二倍以上も雪が降るんだからさ。んな事やってられないよ。
 寒いのに外に出てなあ、屋根の上の雪を落としたりするんだ。雪ってのはあんなにふわふわしてる癖に積もるとこれが重くてさ。家全体が歪んで扉が開かなくなるし、下手すりゃ潰れちまうんだよ。
 何がって、家さ。雪の重さで家が潰れるんだよ。
 信じられないのかい。あんまり雪を知らない人間にとっちゃ、そうだろうなあ。
 だから、俺は大人になったら雪の無い所に住みたかったね。雪掻きなんて面倒な仕事が無い所にさ。
 今はまあ、知っての通りそれが叶っちゃいる訳だけどな。
 でも、雪掻きが嫌いなだけで雪自体は好きだったなあ。やっぱりさ、後が面倒だろうと綺麗なんだよな、雪は。
 あんた、雪が降ってる時に空を見上げた事があるかい。
 じーっと見上げてるとさ、何だか身体がふうっと空に浮いてくような気分になれるんだ。学校帰りなんか、よく滑り台のてっぺんに登っちゃ空を見てたもんさ。
 それに、雪の降る夜かな。
 真夜中に家の窓から外を見るとさ、しぃんとした中で深々と雪が積もって周りがどんどん白くなってって、このまま閉じ込められるんじゃないかって気になるんだよ。あれは子供心に少し怖かったな。
 後は何といっても雪が降った日の朝だな。
 足跡一つ無い雪が一面に積もってて、眩しくてさ。うんざりする程雪掻きをしなくちゃならないって分かっていても、やっぱりこれが見とれるくらい綺麗な景色なんだ。
 ん?……そんなに楽しそうかい。
 まあ、今は雪掻きとか面倒な事をしなくても良くなったけどさ……やっぱり時々は懐かしくなるんだよな、雪。
 白状すると、たまには夢に見たりもするよ。特に、こんな寒い日にはさ。
 確かに、帰りたいのかも知れないなあ。
 ……でも、もう二度と同じ光景は見れないんだろうな。
 この辺り、雪がもう何十年も降ってないんだ。
 ああ、俺はここの出身だよ。一度もここらを出た事は無いな。
 だけどまあ、そうだなあ……さしずめ『今は無き故郷』って言うんだろうなあ、これも……。
 
 
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