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クリエイター名  沼波 連
世界黎明の雷鳴

『世界黎明の雷鳴』

 今は昔、世界があって神々がいて、神々は互いに争いました。そして神々は滅び、世界は崩壊しました。この世界の終末の直前、砂漠に2体の神がいて呆然としていました。
 2体の神は背中合わせに立っていて一体は空を見上げました。青空に無数の花が咲き乱れていました。星々が爆発して万色の色彩を放っていたのです。彼は感心するともう一体の神を小突きました。
 もう一体の神は唇を硬く結んで地面を見ていました。砂漠は地平線の果てまで墓標で埋め尽くされていました。これは2体の神が死んでいった神のために行ったものでした。この神は小突かれて顔を上げると、思わず口元を和らげ、なんて綺麗な、と言葉が漏らしました。
 小突いたほうの神は満足して胸を張りました。しかしすぐにうなだれました。綺麗は悲しい、と。
 やがて空に咲く花々は消えました。世界の崩壊によって爆発の閃光が消えたのでした。地平線ではいくつか墓標が無くなっていました。これも世界の崩壊のせいでした。世界は、テレビのスイッチを切るように終わるのでなくて、紙魚が本を食い荒らすように、少しずつぼろぼろになって終わるのでした。
 穴だらけになっていく世界から逃れようと2体の神々は歩き始めました。すると一方の神が足を止めました。そしてもう一方の神の背中へ言いました。
 「無駄よ。世界内部にいる限り決して滅びを免れられない」
 「そうだね。でもぼくはあがこうとおもう。死のそのときまで」
 「きみの平静な態度が憎たらしい。死は怖くないの、不安でないの、この不条理にいらだちや悲しみは」
 「ぼくが感じているのは、怯えるきみが可愛らしいってことだ」
 「怒るよ? きみは馬鹿だ」
 「断言されてしまった。馬鹿ついでに訊くが、きみは死にたくないんだね?」
 「当然」
 「だったら世界の穴をぼくたちの手で埋めよう」
 2体の神は空を見上げました。そこには無数の虚無がありました。小さなうろは群がると一体となって大きなうろへと成長しました。
 神の一体は空に両手を伸ばし、そして熱いものに触れたように引っ込めました。
 「そんなこと、できるのか」
 「できるとも」
 「それは世界の創造だ」
 「創世しないかって誘ってるんだ」
 こうして2体の神は世界の穴を新しい世界で埋めようとしました。
 最初の試みとしてかつての世界を再生させました。ジグソーパズルの空白にピースをはめ込むようにして、虚無を埋めました。するとその箇所は隣接する虚無に飲み込まれて消滅しました。
 ならば、とピースの周囲を防壁で覆ってからはめ込みました。今度は先ほどよりは長持ちしましたが、結局は消滅しました。
 とはいえ2体の神は気を良くしてこのプランでいくことに決めました。ピースをいくつも作ると、前よりも強力な防壁とそれに再生能力を付与してから、虚無を埋めました。
 こうして穴だらけの世界は、少しずつ繕われていきましたが、ある日、繕った部分が一斉に消滅しました。
 2体の神はこの原因を知りました。それは自分たちのせいでした。神もまた世界の一部に過ぎず、世界が滅ぶなら神も滅び、この神の創造物も滅びるのでした。2体の神は打ちのめされました。
 2体の神はなにも言わずに別れ、それぞれで滅びの時を迎えようとしましたが、そのときが来るとお互いを探し出していました。
 世界という世界は崩壊して、残るのはもはや2体の神だけでした。虚無は2体の神を包囲すると徐々に迫りました。
 どちらかの神が言い、一方が応えました。
 「今一度、世界の創造を。我らが内部から崩れ去る前に」
 「同じ事が起こるだろう。滅びから免れるものなどいない」
 「もはや免れようとはおもわない。だが、乗り越えていこう」
 虚無が2体の神を襲い、同時に2体の神は内部から崩壊しました。
 そして残されたのは虚とも実ともいえない曖昧ななにかだけのはずでした。しかし突如として稲妻が生じて虚無を引き裂きました。
 稲妻は自らを飛翔させるために空間をつくり、自らを発光させるために光と闇をつくり、瞬くために時間をつくり、轟きを響かせるために大気をつくり、聞かせるために生命をつくり、生命のために大地をつくりました。 
 すると虚無は旧世界からの稲妻と新世界を消滅させようとしました。しかし稲妻は投げ槍のように飛来すると打ち払いました。
 虚無が世界を消滅させれば、稲妻は創造し直し、虚無が稲妻を握り潰そうとすれば、稲妻はこの掌を裂いて未来へ逃れました。こうして虚無と稲妻の永劫の戦いが始まりました。

This is end.
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