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クリエイター名 |
法印堂沙亜羅 |
サンプル2(ライブの1シーン)
悲鳴に近い喜悦の叫びが、周囲を満たしていた。 心臓の破裂しそうな重さと速さで叩きつけられる、ドラムの16BEAT。 ドライアイスの薄い煙幕が、点滅を繰り返す原色のライトと宙を切り裂くレーザー光を際立たせる。 前へ前へと何かを訴えるように詰めかけるオーディエンスは、ステージ前に設えられた鉄柵すら押しつぶしそうな勢いだ。 ステージの中心にいるのは、切れ長の黒瞳に鉄色の長髪のヴォーカリスト。 男にしては艶なメタリックなグレイに塗った唇で何か叫ぶたびに、オーディエンスの叫びが一際大きくなる。 ヴォーカリストが、すっと手を上げた。人差し指を突き出して左右へと振る。 ざわめきが退いた。一本のピンスポットを残して、ライトもレーザーも止まった。今の動作が習慣的な合図だったのだろう。 耳に痛いほどの静寂の中、灰色の唇が掠れた声で呟いた。 「Jack The Ripper」 曲名だろうか、その呟きが終わる瞬間、熱狂が周囲に炸裂した。 沸点を越えた者達の絶叫、飛び交う光条、ベースの重低音に乗せて、ギターのメロディが奔り出す。ライブは、最高潮を迎えようとしていた。
自サイト掲載「Angel's Joke」より抜粋
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