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クリエイター名 |
法印堂沙亜羅 |
サンプル4(お笑い時代劇)
その姿が奥へと消えると、銭湯の正面の柳の木の陰で遊び人らしき男がいかにも小悪党じみた笑いを漏らし、いずこかへ走りだした。 男は近所の蕎麦屋に駆け込むと、そこにたむろしていた十人ほどの男たちのもとへゆき、リーダー格とおぼしき者に耳打ちした。 「よし、確かに入ったんだな」 「間違いありやせん。へへ、約束の金を。おお、こりゃ、どうも。じゃ、あっしはこれで」 知らせに来た男は金を受け取ると、そそくさと去っていった。 「よし、行くぜ、野郎ども」 男たちがばらばらと立ち上がる。明らかに、やくざ者の集団であった。 「いざという時にゃ、お願いしますぜ、先生」 「うむ、まかせておけ」 こういう集団に浪人風の「先生」がついている。これまた時代劇のお約束の一つである。 それはともかく。 男たちは足音高く、肩いからせながら蕎麦屋を出たのであった。 「ああっ、お客さん! お代は〜!」 蕎麦屋の親爺の叫びは、当然の如く無視された。これまた、お約束であった。
自サイト掲載「長崎奉行、銭湯へゆく」より抜粋
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