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クリエイター名 |
白峰なおう |
サンプル
『自分に出来ること 自分にしか出来ないこと』
その国の王様は退屈だった。前の王が急死してから突然王位を継いだため、王というものの大切さをまるで分かっていなかった。 「さ、今日もこの許可証にハンコをお願いします」 大臣が許可証を持ってきた。王様はそれにハンコを押した。毎日毎日繰り返される、紙にハンコを押すだけの仕事。王様は退屈だった。もっと楽しい仕事がしたかった。 「そうだ、家出しよう。変装していけば大丈夫さ」 早速変装をして、王様は家出をした。よく知ってる城なので、隠し通路は完全に分かっていた。兵士たちさえも知らない隠し通路だ。
「国王はどこだ!!」 大臣は兵士に聞いた。 「そ・・それが・・・見つかりません!!」 兵士にも分からなかった。 「何!何のためにお前たちがいるんだ!!」 「も、もうしわけありません!!」 城では、みんなが大騒ぎしていた。誰も王様を見つけられなかった。 王様はその様子を見て、笑い出した。誰にも見つからなかったのが嬉しかったのだ。 元気いっぱい、王様は外にで出た。
王様は嬉しくてしょうがなかった。今まで城から出たことなどなかったのだ。全てが驚きだった。 「さてと、やんなくちゃね。」 目的は決まっていた。仕事をすることだ。つまらない仕事ではなく、楽しい仕事だ。 「あ!ここがいい!!」 そこはレストランだった。小さいけど賑やかで、みんなが一生懸命働いていた。見てみると、働く人の募集をしているようだ。早速、お願いする事にした。変装は完璧なはずだから、王様だとばれるはずがない。 「えっと、ここで働きたいと思った理由は何かな?」 そのレストランの店長が王様にそう聞いた。答えは決まっていた。 「僕は楽しめる仕事をしたいんです!」 王様はは必死に話をした。今までの仕事がつまらなかったこと。決まったことだけをやらされる辛さ。 その話を聞いて、店長は微笑みながら王様の頭をなでた。 「やる気がありそうだね。仕事になれるために、今からでもから働いてもらおうか」 「はい!ありがとうございます!!」 王様は嬉しくて飛び上がった。
店の中を案内された。ドキドキしていた。店員の人に歓迎されて、ますますやる気を出した。店員の人が、色々な事を教えてくれる。 「ほら、お客さんが来たよ。挨拶して」 「注文を聞いてきて」 「料理を持っていってよ」 「さ、お客さんが食べ終わったお皿を片付けるよ」 王様は言われたことを次々とこなした。仕事は大変だった。休む暇など全くなく、一日中動きっぱなしだった。それでも、王様は満足していた。お客さんの笑顔。店員の人とのおしゃべり。仕事の楽しさ。 「僕の求めていたものはこれだったんだ!」 あまりにも楽しかったので、王様ははその日の夜は眠れなかった。 「ようし!明日もがんばるぞ!」
それから数日後のことだった。王様はいつもより早く仕事場に来ていた。 「あ、おはようございます」 店員の人が声をかけてきたので、王様も元気よく挨拶をした。 「おはようございます。今日もがんばりましょう」 「はい。がんばりましょう」 いつものように仕事をはじめた。仕事にも慣れてた。すると、店長息を切らして店に飛び込んできた。 「大変だ!今月の営業の許可のハンコをもらえない!!」 店長がそう言うと、店員は驚いて聞いた。 「え!?どうしてですか??」 「なんでも国王が不在らしい!!」 「そんな!!今月はどうしたら!!」 それを聞いて、王様はショックを受けた。自分が家出をしたため、許可が取れないのだと知ったからだ。 「ハンコ・・・。僕の仕事・・・。僕にしか出来ない仕事・・・」 王様は駆け出していた。自分に出来る事をするために。
それから数日後、レストランは王様の許可を貰い、無事に営業をしていた。 「ふう。国王が戻って、許可がもらえてよかった」 「でも、せっかく仕事に慣れてきたのに、彼はどこにいったのでしょうか」 「・・・わからない」
「国王、ハンコをお願いします」 大臣に言われ、王様はハンコを押した。 「ありがとうございます。今日の分はこれで終わりです。 そう言って、大臣は部屋から出て行った。 「つまらない仕事。でも、僕にしか出来ない仕事。どれだけつまらなくても、僕にしか出来ないんだ。僕に出 来ることを精一杯やろう」 少し寂しそうに王様はそう言った。
終わり
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