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クリエイター名 |
そーら |
サンプル
『リンゴ殺人未遂事件』
ぐお〜〜〜。すぴゅ〜〜〜〜。く〜〜〜〜〜。
「寝てますね・・・」 「そのようね。」 「はて、一体どういう事なんじゃ?」 訪れた町の入り口でいきなり倒れた旅の連れを、急いで宿の一室に運び込んだ残り の三人。訳もわからず、中でも大柄の男が眠る彼の者を軽々とベッドに降ろすと、そ れはイビキも高らかに・・・寝ていたのだ。 「だから、ちょっと待って下さいって言ったのに・・・」 ため息をつくのは大柄な男の娘である。 「そう言えばあんたは、何で止めたの?」 一行の中心人物である少女は不審そうに眉を潜めた。娘は慌てて答える。 「だって、何か怪しいじゃないですか。いきなりタダでリンゴを配るなん て・・・。それも旅のお方に、って、わたし達しかいなかったじゃないですか。」 「宣伝にもならないのにってことね。」 「ワシはてっきり、流行らない町の町起こしの一貫かと・・・」 「タダより怖いものはないと言うじゃないですか〜〜〜。」 「う〜〜〜〜ん。」 考え込む三人をよそに、ベッド上の人物は平和そ〜〜〜な顔で眠っている。 「とりあえず・・・医者でも呼んでみるか。」 「そうですね。」
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一目見るなり医者はのたまった。 「これはリンゴの呪いです!」 ずべええええっっ!!! 一行が派手にコケる。 「ちょっと待ってよ。あんた医者でしょ!?」 「確かに私は医者ですが。副業でまじない師もやっております。」 「何か・・・矛盾した二足のワラジですね・・・」 「ともかく。以前にも見たことがあります。間違いなく、リンゴの呪いです。」 「何なのよ、その呪いってのは。」 「恐ろしい呪いですよ。一口食べた者を、永遠の眠りに誘うのです。」 「永遠の眠り!?」 「そぉ〜〜〜です。」 「そんな。どうしましょう。」 「ちょ、ちょっと。解決法って・・・ないの?」 「あります。」医者の目はきらりと光った。
「王子様のきすぅ〜〜〜〜!?」
「そぉ〜〜〜です。」きらりっと光る医者の眼鏡。 「古来より、リンゴの呪いには王子様のキスと相場が決まっているのです。王子様 のキスが無ければ、この方は眠ったままです。」 「な、なぁにぃ〜〜〜!?」 思いっきりひく一行。大柄の男はきょとんと事態のなりゆきを見守る。 「ちょっと待ってよ。他に・・・方法はないの?」 「ありません。薬も魔法も、この場合役に立たないのです。」 「んな馬鹿な〜〜〜〜!」 「どうしましょう!?」 「んなこと言ったって、こんな町に王子様なんかいるわけないっしょ!」 頭を抱える娘二人の脇で、医者は口の端に小さく笑みを浮かべていた。 「それでは、おふれを出して近隣より集ってはいかがです。町を上げてお手伝い致 しますよ。」 ぴたりと固まる二人。 「おふれ・・・?」 「そ〜〜〜うです。」医者は立ち上がり、手を広げて芝居がかった仕種で言った。 『眠れる美女を救う勇者よ来れ!王子求ム。交通費自腹。時間応相談。 容姿問わず。委細面談。』 ぴききききっ。 「あの・・・」医者の宣伝文句にひきつる少女。 「??どうかしましたか?」 口の端をひくひく言わせながら、少女は眠れる人物を指差した。 「この人・・・男なんですけど・・・・」 「・・・・・・・・・え・・・」
何も知らずすぴょすぴょと眠るのは、長い金髪を枕に広げ、襟元まで毛布に覆われ た端正な顔の人物。あからさまに青ざめた医者が遠慮なくその姿をびしっと指差す。 「男!?」 「男。」 「この人が!?」 「そう。男。」 真顔ではっきりきっぱり肯定され、固まったのは今度は医者だった。彼はくるりと 後を向き、何やらぶつぶつ呟き出した。 「予定が違うじゃないか、あいつ、男と女を間違えおってからに・・・」 「・・・何か言いましたか?」 「え!?い、いえ、別に!・・・しかし・・・そうですか、男の人・・・」 明らかにショックが隠せないようだ。思いつめたように悲壮な顔でしばらく寝顔を 見ていた医者は、やおらぽんっと手を打った。 「そうだ!いい考えがあります!」 「い・・・いい考え・・・?」医者以外の、三人が唱和した。
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がやがや。わいわい。 口コミと、徹夜で町の人間が近隣に張りまくったはり紙のお陰で、町は一気に賑や かとなった。我こそはと思う自称他称王子の団体が到着したのである。 その数は日に日に膨れ上がり、町の宿屋は全て満室となった。
「・・・こりゃ、起きたら怒るだろ〜〜な〜〜〜」 「そうですね・・・」顔を見合わせる少女が二人。 二人の前には美しく輝くガラスのケースと、その中で安らかに眠る王女が一人。 ・・・いや、王女の扮装の男性がひと〜〜〜り。
あの後、医者の『いい考え』を実行するべく、町の人間が総動員された。 何故か先頭に立ったのは町長で、ガラス職人に言い付けて特別あつらえのケースを 作らせ、衣装担当の呉服屋には突貫でドレスを作らせ、メーキャップアーティストと フラワーアレンジメントの先生を呼んだのだ。 そして町長の家の一室は、美貌の姫の眠るガラスケースで占拠された。 ・・・・美貌の姫って? 勿論、前述の眠れる男性である。 顎のすぐ下まで襟の詰まった素晴しく豪華なドレス。黄金の髪は梳られシャンプー もリンスも完璧、キューティクルぴかぴか天使の輪。うっすらとお化粧された顔に は、ピンクの口紅を塗られた口元がワンポイントになっている。ガラスケースの中に は白いバラが敷き詰められ、部屋にもふんだんに花が生けられていた。
その外では、整理券を配る仮設のテントが設けられ、町に到着した王子達が並んで いた。徹夜組も出ているらしい。しかもこの整理券、タダではないのだ。チャレンジ 料として、ちゃっかり料金を取っている。
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