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クリエイター名 |
藤木 了 |
ファンタジー:宿屋にて
どんがらがっしゃん!! ドアを転がりブチ開けたのは、くすんだ赤い髪の男だ。 埃を巻き上げ、襟足の長い髪をかき回す。 ここは、この町にある唯一のギルド兼、宿屋兼、食堂。‥‥3つも兼任していたんじゃ、そりゃ唯一に違いない。 「どうした」 のんびりと声をかけるのは、宿屋の親父。動じないのは突拍子のない奴らの面倒を見慣れているからだろう。 大丈夫か、立ち上がれるか、と手を差し伸べる冒険者の中。 ぼんやりと、カウンターの向こうにいる親父を見上げた男は、一言。 「腹へった」 宿屋の親父も、冒険者達も聞きなれた決まり文句を呟いた。 心配して損した、と。冒険者達はガックリとうなだれて、各々の席に戻る。 「けど、金がねぇんだ」 赤髪男は、ボリボリと髪に指を突っ込みつつ立ち上がり、苦笑い。 「かまわねぇよ。アンタ、冒険者だろ。メシ食ったら仕事しな。その報酬で払えばいい」 「すまん、恩にきる。あと、俺の相棒‥‥相棒‥‥」 くるり、と辺りを見回し、首を傾げて‥‥ 「おーい、ハゲ、」 「くぴゃあああ!!」 がん! ガラガラどん!! 一瞬後には、壁と仲良しさんだった。 男の頭に突っ込んできたのは、大きな翼を広げた鷲‥‥わし‥‥その鷲はハゲ鷲だ。 「いててて。よぉ、ハゲ。恥ずかしがらずに入って来ればいいのに」 ばしぃ☆ また頭を蹴られる赤髪の男。 どうして男があんな変な登場をしたのか、食堂にいた一同全員が納得した。 いくら本当に禿げてても、そうは言われたくないものだ。それは人間だけに共通した話ではなかったという話だ。 男はゆっくりと大事そうにハゲ鷲を抱きかかえて、自慢げに宿屋の親父に向き直る。 「俺の相棒、ハゲ」 ばしぃ!! 「いてて、照れ屋だよな、お前」 それは違う。 見守っていた冒険者達の心の中の突っ込みは、男に通じず。 ひとり、にへら、と。トロけた笑顔で鷲の翼をなでる。 「その相棒の名前は、何て言うんだ?」 迂闊に『ハゲ』などと呼ぼうものなら、この男の二の舞だ。 冷や汗をかいているのは、宿屋の親父だけではない。 いくら細身とはいえ、それなりに身長のある男ひとりを蹴りでぶっ飛ばせる鷲である。笑って済む問題ではない。 「だから、ハゲが名前なんだ」 きょとん、と聞き返した男の顔を、また蹴りが‥‥今度は回避成功だ。 「もっと、いい名前をつけた方がいいんじゃないか」 「めんどくせーし、わかり易いし、一石二鳥」 どがああ! 鷲の足が。男のアゴヘクリーンヒット。 そして、男はすぅっと気を失い、ゆっくりと背後へと倒れたのだった。
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