|
クリエイター名 |
藤木 了 |
ホラーシーン
鍋の中身をかき回す。 もだえ苦しむ友人達を、何の感情もなく、ただ無情に。 手に持った大きなシャモジで鍋の中へと押さえつける。 こんなに近くにいるのに。 彼女達の声は、とても遠くから聞こえる。 必死に、その煮えたぎる鍋の中から這い出そうと、手を必死に伸ばし。 それを私が押さえつける。
肉が溶けていく。 身体が。全てが。溶けて、赤く煮え立つ中身と同化していく。 鍋のフチ。 とても熱いに違いないのに、彼女達は遠慮なく、そこに手をかける。 逃げだそうと手をかける。 冷静に、ゆっくりと。私はそんな彼女達を再び鍋の中へと沈めるのだ。 もう死んでもおかしくないほど、身体は焼けただれているのに、不思議と生きている。 不思議と。 なのに、私はそれさえもおかしいと思うこともなく、ただただ、鍋から這い上がろうとする友人達を鍋の中へと突き落とす。 ただ、その繰り返し。 すでに原型をとどめていないのに、それが誰だか解るのは。やはり夢だからか。 解っているのに、助けようとしないのか。 涙を流さないのか。殺そうとするのか。 何のために、私はそんな事をしているのか。 食べるため。 誰もが動かなくなって、友人達が溶けたそのスープを。 私は食べる‥‥いや、飲むつもりなのだ。 平然と。当たり前のようにそう思って、料理する自分がそこにいる。 あああ、動きが怠慢になっていく。 みんな諦めたのか、とうとう死んでしまったのか。 私がかき回す鍋の中身。 私がかき回すままに従って。今は‥‥抗いもなく。
くるくると。そこに。具として存在する。
|
|
|
|