|
クリエイター名 |
グロック |
戦闘描写?A
「逃げないのだな?」 黒鋼(くろがね)の甲冑に包まれた男の表情は相変わらずわかりにくかったが、その口ぶりから余裕の色は消えていない。嘗められている、と感じる。 「ああ」 「ならば――」 男の言葉尻は、自ら繰り出した戦斧の一撃によって呑みこまれていた。 リオナは屈むようにして初撃の薙ぎ払いを回避していたが、ごっ、という斬圧に背中を叩かれたときは思わず全身を冷やりとしたものが駆け抜けた。 腰から上が無くなっていても気づけないかもしれない。 そのまま前に飛び込むように地面を転がった。――この敵の前では、止まると、死ぬ。 地肌に横たわっていた枯れ枝の何本かをへし折りながら前転した彼女の身体は、惰性に任せることなく左に跳ねる。その直後に彼女が転がっていた地面は、二つに割れていた。 「化け物か……!」 呻きを呑みこみながらも、リオナは男の背後に回り込むことに成功した。 最小限度の損傷を与えて鎮圧する、などというふざけた戦術の通用する相手ではないと感じた。この男を止めるためには腕の一本でも断ち落とす必要があるかもしれない。 手にした幅広の長剣が、男の左肩の甲冑の継ぎ目を目掛けて一閃される。だが―― 直後、リオナの身体は弾かれた鞠球のように草地の上を転がっていた。 「くぅっ!?」 回転に対して足を踏ん張るように地について立ち上がろうとしたリオナだったが、その勢いのままブナの幹に背を打ちつけて苦鳴を吐き出していた。……軽く十メートルは飛ばされたのかもしれない。 何が起きたのかわからなかった。いや、振り下ろした剣が男の戦斧に真横から打ち払われたことはわかっている。その瞬間、視界が真っ白になった。 剣が爆発した、かと思えた。 落ち着いて自分の身体の状態を確かめる。……どこも斬られていない。 打撲による痛みも、ブナの幹に衝突した背中のものだけだ。剣も、手元にしっかりと握り締められている。 まだ戦える――はずだ。 顔を上げる。男の位置は変わっていない。黒鋼の悪鬼が、初めからの余裕を保ったままリオナを睥睨していた。
|
|
|
|