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クリエイター名 |
綾海ルナ |
永遠の華
永遠が欲しいわ。 離れられないくらい、体で体を強く結んで。 貴方と私の間に何も入り込めない様に。
貴方に愛されて、私はこの世で1番美しい華になる。
永遠の華
「あの子は女の子なのにどうして騎士になりたいのかしら」 貴方の胸に頬を寄せたまま、私は呟いた。 情事の後の気だるい温もりが心地よい。 「あの子? あぁ、彼女の事か」 いつものように優しい貴方の声。 ある少女の事を思い出しているその仕草に不機嫌になったと知られたくなくて、そっと顔を伏せる。 「本人が望んでいる事だからな。とりたて理由を聞いた事はないが……」 私の頭を撫でている手を止め、貴方は言葉を濁した。 「君は知らないだろうけど、彼女は不幸な生い立ちを背負っているんだ。それなのに健気に明るく振舞っている」 私は貴方の言葉だけではなく声色にまで耳を傾ける。 そこに僅かでも愛情がこもっていないかを確かめる為に。 「きっと、国や人のために剣を振るうことで自分の価値を見出したいんだろう。…可哀相な子なんだ」 「同情しているの?」 「……そうかもしれないな。たまに見ていて痛々しくなる」 「可哀相だから……愛しく思ったりするの?」 急に貴方が体を起こした。 困ったような顔で私を見下ろしている。 月明かりに照らされたその顔の美しさに、体の芯がぞくりと震えた。 いつもは精悍な貴方の顔が別人のように見える。 「俺が愛しいと思うのは君だけだ。彼女にそんな感情はない」 ……嬉しかった。 叫びたいほど嬉しかった。 貴方の愛を独り占めしていることとあの子への優越感に、私の心は醜く歪む。 こんな私を貴方は知らない。 だから私に優しく口付けてくれるのだ。 貴方に愛されるのなら、私は私を押し殺そう。 綺麗な私だけを愛してくれればそれでいい。
だからお願い。 もっと私を愛して。
いつだったか。 貴方と剣の手合わせをしているあの子を見た。 褒められて頬を薔薇色に染めている彼女は、抱きしめてしまいたくなるくらい愛らしかった。 彼女の知らない貴方を知っているのに、私の知らない貴方を知っている彼女が酷く恨めしいと思った。
「明日も一緒にいられるんだな」 嬉しそうな貴方の声に、私の顔は自然に綻ぶ。 「嬉しい?」 答えがわかっているくせに、わざと訊いてみる。 「もちろん。平和な世の中に感謝したいくらいだ」 「本当ね。……戦争なんて起こらなければいいのに」 そうすれば貴方は危険な目に遭わないのに。 ずっと私の傍にいてくれるのに。 「……死なないで」 私は貴方にしがみつく。 触れていないと何処かに行ってしまいそうな気がした。 「死なないよ。君を残して逝けるものか」 貴方は私を抱く腕に力を込めた。 「ねぇ、死ぬ時は一緒よ?」 私は密かな望みを口にする。 貴方の心や体だけでは飽き足らず、その命までも欲しがる貪欲な女。 それが私の正体。 「違うよ。二人で生きるんだ」 でも貴方は肯定しなかった。私の中の闇に気づいていないから。 「でも死ぬまで一緒にいよう。俺にとっての女は君だけだ」 それでも貴方は私に誓ってくれる。 変わらぬ愛を。 「……永遠に?」 「ああ、永遠に」
「明日はどうする? 何処か行きたい所はあるか?」 「貴方と居られれば何処でも幸せよ」 「俺もだよ。君の傍が1番いい」 「……ねぇ。明日は1日中愛して」 貴方は微笑った。
愛されれば愛されるほど、華は美しくなる。 貴方の愛だけが私の栄養。 他には何もいらないわ。 貴方が愛して続けてくれれば、枯れる日だなんてやって来ないのよ。
私は永遠の華。 いつまでも美しく咲き誇っていたい。
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