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クリエイター名 |
トサツシヘェホ、 |
旅の後に
「ねー、ロビン。どっか行こうよ」 「勉強中だって言ってるだろ」 テーブルの横で騒いでいるリラに適当に返事をしながら、俺は剣術書のページをめくった。 俺はロビン。十八歳。今は自由の身だが、数ヶ月前までは周りからは勇者と呼ばれる存在だった。
俺がまだ幼かった頃のことだ。突如異界から現れた魔王が、この世界を支配しようとおびただしい 数の魔物を放った。魔王本人は手を出さず、ただ城で混乱する人々を見ていたらしい。 このままでは駄目だと思い、俺は十七のとき魔王討伐を決意した。城兵の父に昔から剣を習ってい たため、多少の自信があったのだ。無事を祈る母と古傷のため共に行けない、と嘆く父に見送られ、 俺は旅立った。 その途中、とある賑やかな町で出逢ったのがリラだ。教会に通いシスターになるため修行をしてい るのだと、初めて逢ったときに聞いた。 魔法の腕はかなりのものであり本人も乗り気だったため、俺は彼女と旅をすることになったのだ。 だが、彼女はシスターを目指していることを疑いたくなるほどとんでもない女だった。 注意を無視し封鎖された洞窟に入るわ、おんぶしろと騒ぐわ、露出度の高すぎる服を欲しがるわ ……今でも思い出すと頭痛がする。 だが、彼女のおかげで解決出来た事件も多い。リラは強く、そして優しい。魔王を倒せたのもリラ のおかげだ。
そして平和が戻り、互いに故郷に帰ったのだが――リラは毎日のように俺のところにやって来る。 彼女は一瞬で移動出来る呪文も心得ているのだ。俺の両親にも気に入られているため、厄介だ。 「平和が戻ったんだし勉強なんていいじゃない。遊ぼうよ」 「だけど、いつかまた魔王が復活するかもしれないだろ」 「……だからこそ、一緒に色んな場所を見に行きたいの」 本に目を落としていた俺の耳に、急に調子の変わった静かな声が届いた。 「……どういう意味だ?」 「今の平和で綺麗なこの世界を、二人で胸に刻んでおきたいの。そうすれば守りたいって気持ちにな って、いつか魔王が復活しても戦えると思うから」 リラは、俺の目を見て言った。 美しい世界を見たい、そして守りたい。そんな想いが、俺にも伝わって来る。 「リラ……」 「駄目?」 不安げに俺を仰ぐリラ。だが、俺の答えはもう決まった。 「――少しだけだぞ」 「わ! じゃ、早く行こう!」 ドアへと駆け出すリラを見ていたら、胸が少し熱くなった。
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