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クリエイター名 |
天童雪 |
短編
走る、走る、走る。朝靄の中、少し痛い位に冷えた空気の中。 別に急いでるわけじゃないけど、今日は何故かそうしたい気分。ずっと走っていたい。 だから自転車は家に置いてきた。予定よりずっと早く出た。 家は住宅街のど真ん中だから、最寄の駅まで自転車でピッタリ十五分かかる。 その倍くらいの時間はかかると思って三十分前に出たから乗りたい電車に間に合うはず。 走る、走る、走る。住宅街を抜けて、大通りに出て、そのまま真っ直ぐ駅まで走る。 裏道に入って駅を目指せば、更に早めに着くはず。 太めに編んだ腰まである長さの三つ編みを揺らして裏道へと入っていく。 「はぁ・・・はぁ・・・あと・・・少し」 走りながらバッグの中から携帯を取り出す。 「余裕有りすぎっ!」 白い息が弾む。傍から見たらどう見えているのだろうか。 すごくバカっぽく見えるのだろうか。黒いセーラー服(冬服)のバカな子。 「はっ・・・はぁ・・・はっ・・・」 実際バカっぽい理由で走ってるわけだけれども。 「よしっ・・・十分前・・・はぁ・・・」 結局二十分で最寄の駅に着いた。物凄く疲れたけど。 「・・・私が早く着いたからって電車が早く出るわけじゃないんだけどね・・・」 ポツリと呟いて、駅の階段を登り改札へと向かう。 毎度、思うんだけど、あのポストの上の大きい将棋駒(王将)は必要なのだろうか。 幾ら名産品だからって、あそこまで強調すること無いじゃない。 無人の改札を通ってホームに辿り着く。時刻は七時一分を回った位。まだ人は少ない。 両手を擦り合わせて、はぁーっと息をかける。今日に限って手袋を忘れた。 お気に入りのオレンジ色の手袋。 何となく落ち着かない携帯電話を取り出して、訳も無くカチカチと操作してみる。 「今日、何話そうかな」 私、轟千華、十七歳。花も恥らう高校二年生。
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