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クリエイター名 |
小鳩 |
【煌國】(和風ダーク)
■サンプル1 【煌國】より
出撃した先発隊は長い通路を使って、城の裾にある農園の出口から地上へ出た。 林檎を実らせた果樹園に人影や鳥形機械の姿はなく、農具は放り出され、辺りは霧で包まれている。
牡丹は何かが擦れ合う音で辺りを見回し、目を凝らすと、白い闇の向こうに異様な輪郭が蠢いているのを捕らえた。 「前方に、何かいるぞ……」 仲間の一人が光学器械で確認する。それは、ぞうるぞうる、と身悶えながら、蔓の突起を幾つも持った赤むけの嬰児を思わせる姿をしていた。 解放軍の一団を顔の半分近くある大きな灰色の目で、ぎろ、と睨み、突起へ埋まっていた爪のようなものを飛礫のごとく飛ばしてくる。獣人たちが攻撃を避けて、積み上げられた石壁の後ろから射撃を始めると、泣き喚くような声を張り上げて突進してきた。 「背中だ! こいつらは頭を狙っても意味がない。背中の受信水晶を破壊しろ!」 「どうする? いくらでも湧いてくるぞ! 弾が幾つあっても足りない!」 解放軍の仲間は戦士と入れ替わり、後方支援へ回った。体毛を持たず、頭蓋骨内に脳が存在しない巨大な胎児は、脊髄に埋め込まれた水晶の欠片が受信する波動で動き回り、突起を操って這いずっていた。
牡丹はゆっくり息を吸い込んでから刀を構え、獣人の本能を強引に目覚めさせる。 四肢へ凶暴な熱が溜まるのを感じながら、閉じていた両目を開くと、囲む輪を猛然と切り崩しにかかった。 俊敏な足の運びで背後へ回って背骨を砕き、かざされる突起を切り裂き動きを封じる。振るう刃は見る間に赤いものにまみれたが、怯むことなく斬り続けながら、食いしばる歯の軋みと、時折、呻り声が発せられていた。 戦士たちは道を開いて呂尚と解放軍を促す。 「行ってください! ここは私たちが押さえます」 「しかし!」 「行って! 時間がないわ!」 参十六号は離れた所で応戦していたが、先発隊が二つに分かれるのに気がつくと、主人の元へ戻ってきた。 「おまえも行きなさい。きっと、みんなの役に立てる」 〈そ、そんな! 僕の主人は牡丹様です! 僕もここへ残ります〉 牡丹は首を左右に振った。返り血で汚れている顔は、温かな琥珀の瞳が点っている。 「いいえ、おまえは行くの」 参十六号はしばらく感知器を点滅させていたが、何も言わずに積まれた生体兵器の屍の間をすり抜け、呂尚の隣へ移動した。黒き獣人は横目で鳥形機械を一瞥してすぐに正面へ視線を据える。 「いいのか?」 〈はい。だって、牡丹様は強い人ですから!〉 戦闘を再開した牡丹の背中が、少しずつ小さくなっていった。
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