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クリエイター名 |
冬斗 |
サンプル1
遺跡に女が入っていく。 女は冒険者だった。 一人であることは危険を伴うが、仲間が集まらないで決行に及ぶのは珍しいケースではない。 財宝目当ての探索であるのならば。 「‥‥厄介な事引き受けちゃったわね」 女の目的は魔物退治だった。 魔物を相手にするならば人員の充実は必要不可欠だ。 なのに女は道を引き返さない。
古びた遺跡。 だが埃を被ってはいない。 魔物達が根城にしているからだ。 敵は一匹ではない。ここに来るまで二十を超える魔物を倒してきた。 幸いだったのが、この先の魔物とは仲間関係になかった事だ。 縄張りが決まっているのだ。同時にかかってこられたら既に死んでいた。
「流石に無傷ってのはムシが良すぎるわよね‥‥」
無傷どころではない。 女の鎧はいたるところが裂け、中身も治療が必要なレベルに達している。 それでも女は先に進むのをやめない。
魔物退治は勝てる戦力を揃えてから。 冒険者の基本だ。 女は既に熟練の域に達している。 「馬鹿な事だってわかってる。第一に守るべきは自分の命。自分を守れない人間が他人を守ろうなんてお笑い種よ」 遺跡の奥には子供が攫われていた。
娘は生贄だった。 それが村の慣しであり、不文律だった。 だから誰も助けようとはしなかったし、娘もそれを当然だと思った。 その村で自分は育ってきたから。 仲の良かった友達も数年前同じように捧げられた。自分だけ我侭は言えない。 親の言うことを聞くのが当然であるように、村の決まりに従うことも当然のこと。
違う。
当然だと思わなければ耐えられなかったからだ。 これから死ぬ恐怖に。 友達を見捨てた罪悪感に。 だからそれは逃げであって罰であった。
けれど罰はこなかった。 通りすがりの冒険者に助けられた。 村人には罵られたけれど、娘には男が英雄に見えた。
「馬鹿な事だってわかってる」 冒険者は英雄じゃない。 男は村の秩序を乱した悪人だ。 それでも、 娘はその時、救われた。 「仕方ない事ってあるんだ。助けられない人間はいる。 ――でも、助けて欲しいって思ってるのよ」 あの時の自分のように。
だからこれは下らない自己満足。 あの日の自分が見捨てられない。ただそれだけのこと。
「――待っててね。英雄じゃあないけれど――今、助けに行くから――!」
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