|
クリエイター名 |
まさやか |
エンドロール
ある女優の追悼上映があった映画館。 「このハンカチ、よかったら使ってください」 「ありがとう。では、お借りします」 「……どうして泣いていたのですか?」 「それは……男のくせにみっともないですね」 「いいえ。でも私、映画より、貴方の泣くのが気になってしまって」 「……すみません」 「何かあったのですか?」 「……彼女を、愛していたのです」 「この映画の主演女優を?」 「ええ。彼女を見ているだけで、気持ちがポッと照らされるよな、幸せな気持ちになれたんです」 「彼女、素敵でしたものね」 「ええ……でも、私は彼女から逃げたのです」 「どうして?」 「あんまりまぶしかったから。あの時の彼女は、情熱的だった。私のために総てを捨てて愛を貫きかねなかった。それが……」 「それが?」 「……怖かった。彼女はその頃、将来有望なスターだった。そんな彼女を丸ごと受け止めて、幸せにする自信なんてなかった」 「すると、別れてしまったのですか?」 「ははは、そんな格好のいいものじゃない。ほうほうのていで逃げ出したんですよ。故郷を離れて、彼女とはそれっきり……」 「会わなかった?」 「ええ。でも離れてみて、自分がいかに彼女を愛していたか判りました。自分がもっと大きな人間だったらと、悔やみました」 「そうでしたか……」 「でも、彼女はすばらしい女優でしたね。その後の活躍、ずっと見ていました」 「母が聞いたら、喜ぶと思います」 「……では、貴女が?」 「……はい」 「そうですか……」 「母が生前、初恋の人のことを言っていました。貴方がそうなんですね」 「……ええ。」 「よかったら、一緒に墓前に参りませんか? 私、これから向かうところなんです」 「いえいえ、それには及びません。あちらで、彼女と話してきますよ」 彼女がふと気が付くと、男の人は消え、彼女のハンカチだけが座席にキチンと置かれていた。
|
|
|
|