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クリエイター名  文月 猫
予知する男

‥‥俺には不思議な能力がある。普通の人間には説明して信じてもらえないので、あからさまに話したことは無いが。
 え?何かって?まあたいしたことじゃない。たいしたことじゃないが、ある意味自分で言うのもなんだが恐るべき能力といえば、能力だ。
 おっと、断っておくが、決してその能力を使って悪い事をしようとか、他人からなにか詐欺まがいの事をして金品を巻き上げようというような魂胆は毛頭ないからな。第一そんな便利な能力ならこうやって人様に気軽にしゃべったりするもんか。
 え?早く教えろって?まあまあ、そうせかすな。これから言うことは100%本当のことだからな。

 人間だれでも、未来のことが見えたら便利だと思うだろう?というか、もしそんなことができれば、人生失敗なんかするわけもないし、不幸な目にあうこともないよな。なんてたって、未来が見えるんだから。仮にギャンブルにその能力が使えたらと考えてみな。あっというまに世界一の金持ちになれるぜ。いや、本当に。つぎにでるダイスやルーレットの目が予測できるんだからな。

 だが俺の持っている能力はそれらとはちょっと違う。まあ、広い意味では未来を予測することには違いないのだが、金儲けとかその手の類のことにはあまり役立たないかもしれない能力だ。だが、とってもありがたい能力だぜ。

 おっと、前置きが長くなったな。では本題に移るか。俺の能力とは、
「5秒後に起きる自分のアクシデントが予知できる」
 というものだ。どうだい?考えようによってはとっても便利な能力じゃないか?

 人間、いつ不幸が舞い降りるかだれにもわからないものさ。ほら、よく言うじゃないか?「一瞬先は闇」てね。
そんな人間のいつおこるかわからない不幸を直前で予知できる。これこそ究極に便利な能力だとは思わないか?
 例えばだ。道を歩いているとしよう。十字路に差し掛かって、横道から急に車が飛び出してくる、ってことはよくあるよな?でも5秒前にそれが余地できれば不幸な自体から免れることもできるってものさ。5秒あれば立ち止まるとか避けるとかできるからな。

 そればかりじゃないぜ。例えば工事中のビルの前を歩いているとする。すると上から何か落ちてきた。例えば鉄骨でもいい。まともに当たれば即死を免れない物だ。こんなとき、俺はその危険を5秒前に察知できる。ので、
その危険を回避することができる。
 まあ、難点を言えば、他人のことは予知できないことと、5秒前でないとわからないということだが、それでも今までこの俺様の生きてきた人生でこの能力のおかげで九死に一生を拾ったことだった何回かある。どうして、この俺にとってはなくてはならない能力なのさ。

 ところで、あれは冬の季節風が冷たいある日の夕方、いやもう夜だったな。俺は大都会の大通りにから道1本ほど外れた通りをコートの襟をたて寒そうに歩いていたわけさ。その日はたまたまギャンブルでちょっとした大金が手にはいったので、外気の冷たさに反して、俺様の懐は暖かかった、というわけさ。
 そんなわけでこの俺様、いかにも大金を持っています、とかいう表情が出ていたのかは知らないが、暢気に、そう割と無防備で歩いていたのさ。まあ、あたりがそこそこ明るかったのも原因かもしれないが。

 するとどうだ。前方から一人の‥‥。そうだな多少くたびれた感じのコートに身を来るんだ中年男が俺の方へ向かって早足で歩いてくるのさ。
 はじめ遠目にはわからなかったが、その男が急速に近づいてくるのを見たとき、俺の例のチカラが突如、俺様にこう警告したのさ。それはいきなり誰かが俺の耳元でささやくような感覚だった。
「気をつけろ。ヤツは通り魔だ。お前を狙っている。手にしているのはナイフだ!」
とね。
 
 俺は一瞬たじろいだ。わかるだろう?だって目の前に「通り魔」だぜ!!。しかも俺の方に足早に近づいてくる。そのとき俺の動物としての本能が、その生命の危機に迫ったときに咄嗟に引き起こす反応が無意識のうちに俺を動かした。
 とっさに俺は、今来た道を引き換えそうとした。今来た道はすぐに十字路になる。人も車もそこそこ通っている。そこまで全力で逃げればなんとかなる、いや、なったはずだった。誰かに助けを求められるし、通り魔の襲撃もかわせるかも知れなかった。

 だが。俺は次の瞬間、全身に走る激痛と意識が遠くなる感覚。目の前にはさっきの男の持ったナイフがかすかにきらめいて俺の肉体を縦貫しようとしているのが目に入った。‥‥それが俺の記憶している最後だった。

 え?俺は今どこにいるかって。そう、死んだ肉体から離れた俺の魂は、今ちょうど「三途の川」とやらに向かっているところらしい。俺はあえなく通り魔のエジキになっちまったというわけさ。
 何?そんなはずはないだろうって?お前は5秒前に危険を予知、していたんじゃないかって?なぜ避けられなかったのかって?すぐに逃げ出せばそこは十字路だったろうって。
 
 そう。それはその通りだ。だがな。俺がこうなったのには決して避けられなかった事情があるのさ?え?何かって?そうだな。もう死んでしまったので何だが、説明しておこうか。
 確かにあの時、俺は通り魔の危険を予知したさ。だがな、同時にもうひとつの「5秒後の危険」も予知してしまったのさ。それはな‥‥
 もう気がついたかもしれないが、俺があのとき通り魔から逃げるために今来た道を引き返し、十字路に飛び出した瞬間、つまりちょうど5秒後だったのだが、左から猛スピードでやってくる酔っ払い運転の車にはねられて即死する、という予知が飛びこんできたのさ!
 
 まあ、早い話。どっちに転んでも俺はあの世にいくしかなかったって訳だな。俺は「通り魔」と「酔っ払い運転」のどっちか選ぶしかなかったってわけなのさ!!!
 

 
 

 

 


 
 
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