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クリエイター名  藤丘 正午
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 「崖に咲いた華、転生のあと」(小説冒頭)


「あなたが望むのならば、」

 そう言って女は目を閉じた。ゆっくりと後ろに傾く体。
 女の手を掴むことさえ忘れて、ただ呆然とその女が暗闇に吸い込まれていくのを見ていた。
 私たちは草花の咲き乱れる、崖の上に立っていた。
 全てを手に入れた場所だった。

 目が覚める。夢だった。
 何の夢をみていたのか、思い出せない。だけど、複雑な気分だ。
 目覚ましはとっくに止まっていた。もうこんな時間だ。早く用意をして出かけなければ、授業に間に合わない。
 まだ寝ぼけたままの頭をかるく左右に振って、俺はベッドから出た。

 進学校の授業はただただ規則的で、同じことを繰り返すかに見えてそれでも確実に進んでいく。
 満員電車でもみくちゃにされた後、ネクタイの位置を少しなおしながら学校へと歩きだした。
 同じ制服を着た生徒達が次第に増え、それはいつのまにか大きな流れへと変わった。

「今日は、転校生を紹介する。」
 ホームルームで担任が淡々と告げた。
 クラス一同が、突然クラスメイトが増えることに少しだけ驚いたが、それも一瞬で、
 誰もが特に気には留めていない様子だった。
 このよくも悪くもサッパリとした進学クラス特有の空気は、慣れてしまえば無駄がなく居心地がいい。
 入りなさい、そう言われて教室に入ってきたのは女の子だった。
 匂い立つような容姿、見ただけでわかる洗練された身のこなし、モスグリーンの瞳は曇ることを知らない。
 明らかに他を圧倒する存在感だった。 

「桐生ヱミリです。よろしくお願いします。」

 この声…どこかで聞いたことのある声だが…きっと今までに聞いた、誰かの声に似ているのだろう。
 だいたい、そんなことにいちいち興味はない。
 桐生は担任に指定された座席につくと、ホームルームはいつも通りに終わった。

「桐生の目って、独特だよな。薄い緑って目立つし、」
 授業が始まる前に、前の席の後藤に言った。
 後藤は女子生徒に囲まれている転校生の桐生を一度見てから、イスを後ろに傾けると不思議そうな顔をする。
「はぁ?桐生の目はどう見ても黒じゃん?疲れてるの、お前?」
 後藤の言葉に今度は俺が驚いた。桐生を見る。やはり瞳の色はモスグリーンだ。
「え、モスグリーンだろ、あの色。」
 後藤は朝からなに寝ぼけてるの、と言いながら、隣に座る鈴木にも声をかけた。
「いや、黒だろ。明らかに。おまえ…まだ寝てるのか?」
 鈴木はあきれた様子で返す。だよな、と後藤も笑いながら便乗する。
 そんなはずはない。桐生の瞳は明らかに淡い色で、見間違えるはずのないものだった。
 当然のように桐生の瞳の色は黒だと言う友人達のなかで、俺は黙りこみ、その違和感に翻弄されていた。

 午前最後の授業は移動教室だった。
 テキストをまとめると、理科室のある別の棟へと移動するため、俺は友人達とともに教室を出ようとしていた。

「リム、」

 扉の前で、背後から声がした。
 振り返ると桐生がこちらを見ていた。モスグリーンの瞳が潤んだように光って見える。
 先程リム、と呼んだのは彼女だろうか。だが、呼ばれたとしてもそれは自分の名前ではない。
 今日はなんだか調子が狂うな、そう思うと俺は視線を戻し、そのまま友人達と教室を出た。

 桐生ヱミリは教室の出入り口をしばらく見つめていたが
 真新しいテキストを丁寧に重ねると、席を立った。


・・・・・・・ひとこと・・・・・・・・・・・・
グスタフ・クリムトの絵画『接吻』をモチーフにして作成した小説の冒頭部分です。
続きを書きたくて仕方がない(笑)主人公の男子の名前も早く公開したですね(。・ω・。)
サンプルにあげてみました☆
 
 
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