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クリエイター名 |
彼方純 |
オリジナルノベル/プロローグ
ファンタジーノベルのプロローグ部分です。
「うわああああっ!! 貴重な深海魚を猫が!!」 事件は、いつも。 「きゃーっ!! 誰よこんな所で薬品ぶちまけたの!!」 学校の中で起こっている。 「この機械、ポンコツだな! ちっとも動きやしねえ」 「ちょっと、無闇に叩くとまた煙出るよ」
この学園の名前を、まずは教えなければいけないだろう。 私立魔研学園。 マケン学園なんて名前だけ聞くと大層強そうなイメージだが、これは略称でしかない。 正式名称、私立魔法科学研究学園。 魔法を研究する為の知識と方法を学ぶ為に造られた、創立1年の由緒正しき学校だ。 ちなみにこの学園が存在する世界は、そこらに魔女が飛び回っている幻想世界でもなく、遠い未来の話でもない。 まごうことなき現代、2000年問題も片付いてエコに走り始めた日本である。 もちろん日本国民、むしろ世界人口の8割方にあたる人間が知っている事実だが、 魔法というものはファンタジーの世界でのみ発動するもので、現代社会において魔法というのは夢物語、憧れはすれど存在するわけが無い。 ……ならば、どうすれば魔法が使えるようになるのか? それをあくまでも真剣に研究し、魔法を使えるようになろう! この学園の理念は全てここに凝縮されている。
そんな魔研学園の三階廊下。 教室から聞こえる叫び声と機械が織り成す阿鼻叫喚を気にも止めずに歩く一人の生徒がいた。 「……ありえねー」 小さく呟かれた声は、低く、重い。 彼の名前は遠山凛。魔研学園の二年生だ。 上履きの踵を踏んづけ地面を擦るように歩く姿は、傍目から見てもやる気の無さが窺がえる。 彼が何故これほどまでに無気力な状態で廊下を歩いているのかというと、それには理由があった。 「何で俺が『魔女』に呼び出しくらうんだよ」 『魔女』というのはもちろん通称である。 創立して一年足らずの学園で生徒会長を勤める人物。 いつも真っ黒な洋服を身に纏い、自らを魔女見習いだと言い張る彼女は、この学園の中でも奇特な存在である。ちなみに、見習いと言っても師匠はいない。 そんな魔女に呼び出された凛だが、呼び出されるような理由も心当たりも、全く無いのだ。 なるべく目立たなく、穏便に。 変わり者の多いこの学園で、それだけをモットーに一年弱を過ごしてきた。 凛はどちらかというと現実主義者である。 魔研学園に入ったのはアニメや漫画でよくある魔法に興味を持っていたからなのだが、それが現実に存在するとは露とも思っていない。 普通の学校へ通うよりも面白そう、という適当な理由で入学を決めたのだ。 だが、いざ入ってみるとそこは変人の巣窟だった。 皆本気で魔法が使えるようになる事を信じており、それを疑う者はいない。 あまりの本気加減に、凛は入学三日目で退学届けを出そうかと心底迷った程だ。 中でも、魔女のそれは群を抜いている。 自らを魔女と名乗る事も然り、屋上から飛行しようとして教師に取り押さえられたり、進路アンケートに流暢な文字で第一志望魔女、と堂々と記入したりと数々の伝説を作り上げた彼女は、学園一の変わり者として有名なのだ。 そんな魔女に呼び出しを受けるとは、一体どのような用件なのか。
「……何か、悪い予感しかしないんだけど」
教室棟の一番端に位置する扉。 他の教室よりも豪奢な造りの扉の前で、凛は立ち止まった。 しかし、こうしていても仕方が無い。 呼び出しに応じない者には、天罰という魔女の実験体にされてしまうのだ。 ……覚悟を決めるしかない。 凛はその場で一つ、深呼吸をして。 扉に、手を掛けた。
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