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クリエイター名 |
ドク |
サンプル1
――レースは今や最高潮を迎えていた。
レース用に設計された人工の荒野を、時に激しくガトリングやミサイルで撃ち合い、時に近接戦用ブレードを叩きつけながら、二機のレーシング・ドロイドが突き進んでいく。
片やチャンピオンの駆る、全身を流線型の装甲で固めた最新鋭マシン。
片や最下位ランカーの操る、武骨なシルエットを持つ旧式のマシン。
最弱の筈の少年が、最強のチャンピオンを追い詰めている光景に、誰もが息を呑んだ。
「‥‥頑張れ」
――誰かの口から思わず零れ出る呟き。
「――そうだよ、頑張れ‥‥!!」 「頑張れ!!」 「行っちまえ小僧!! こうなったら最後まで突っ走れ!!」
その小さな波紋は、いつしか大きなうねりとなってスタジアムを包み込む。 今や会場の殆どの人間が、最弱の少年の味方になりつつあった。
『‥‥マスター。あの歓声が聞こえますか?』 「ああ‥‥聞こえてる」
AIの問いかけに、少年は玉粒の汗を浮かべながら答えた。 何度もコクピットに体や頭を打ち付けられ、全身のあちこちが激しく痛む――骨の4、5本は折れているだろう。 そして、度重なる激しい機動に耐え切れず吐き出された反吐によって、リニアシートとコンソールは汚れ、コクピットの中にはすえた臭いが充満していた。 それでも――少年の目は死んでいない。
『――これが、あなたの絶え間ぬ努力の結果です。 あなたのやって来た事は、決して無駄では無かった』
無感情である筈のAIの言葉は、何処か誇りと自身に満ちているように聞こえる。
『‥‥あなたは、私の最高のマスターであり、最強の相棒(バディ)です』 「‥‥おいおい、まだ‥‥その台詞は、早いって‥‥」
少年はAIの言葉に苦笑するが、その目からは嬉しさの涙で溢れていた。 いつもは小うるさい筈のAIの言葉が‥‥優しく感じられる。
「なら俺は‥‥お前の主人で相棒の男が、最高で‥‥最強だって‥‥」
涙を振り払うと、少年は思い切り拳を振り上げ――、
「――証明しなきゃなああああああああああああ!!」
――強化プラスチックに包まれたコンソールのスイッチ目掛けて叩きつけた。 その瞬間、明滅していたモニターが力を取り戻したかのように再び光り輝く。
『――Omega Booster.Ready――!!』
バーニアからより太く、より熱い炎が吹き上がり、爆発的な推進力を生み出した。
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