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クリエイター名 |
JOEmasa |
愛せない身体
『愛せない身体』
久しぶりに会った彼女は、痩せこけた頬で弱々しく笑みを作っていた。 僕はそれに力なく手を挙げることしかできず、気付かれないように少しだけうつむいた。 約束した喫茶店は大して混み合っておらず、僕達は通りに面した小さな席に着いた。 ガラスの向こうで行き交う人々を眺めていると店員が来て、まだ注文が決まっていないことを聞いて不機嫌そうに去っていった。
ごめんね。
彼女がぽつりと言った言葉は、僕を鋭く傷つけた。 謝らなければならないのは僕の方で、彼女は何も悪くない。 本当を言えば、傷ついたなどという物言いだって許されない。 だけどいつものようにそこで何も言えずに、僕はメニューを開き彼女の方へ向け、何にしようかと聞くことしかできなかった。
告白され付き合ったことを、後悔なんてしていない。 彼女が幼い頃から病弱で、その身体がいくつもの腫瘍に冒されていることも知っていた。 だから一緒にいるときに具合が悪くなりデートが台無しになっても、夜中に突然泣きそうな声で電話がかかってきても、何とも思わなかった。
いや、何とも思えなかったのだ。 卑怯な言い方は悪い癖で、今までそれで何度誤魔化してきたろう。 彼女は僕の目の前で泣いたことはなかったけれど、寂しそうに笑うことは何度もあった。 僕はその度に、今の自分を嫌いになった。 後悔はせずに、ただ自分を嫌いになっていった。
孤独に慣れているわけでもないのに、人を愛せなかった。 側にいる女性を愛おしく感じることはあっても、決して自分から会おうとはしなかった。 涙するのを慰めることはあっても、自分の弱音を吐いたことはなかった。 相手を嫌いになることがないのは、決して好きとも想わないからだと、ある時分かった。
入院したと聞いたときは、精一杯優しい言葉をかけた。 だけど自分から何処の病院か聞くことはなく、メールも返信ばかりだった。 一月程して退院したと聞いたとき、本当に良かったとしか、言えることがなかった。
いつだって何もかも分かったような顔をして、自分を頷かせていたのだ。 彼女にしてあげたことはいくつかあるが、僕から使ってあげた時間はほとんどない。 気持ちに応えるときも、励ますときも、何をするときも、僕は彼女を愛せなかった。 こうしてまた自分を客観視するフリをして、前にいる彼女の目を見ることもせず、僕はどうしても、自分より大切な人を見つけられなかった。
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