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クリエイター名 |
JOEmasa |
雲間へ
『雲間へ』
視界は白と灰に満ち、溢れかえる機器の作動音をしんしんと降る雪が吸っていた。 荒廃する環境と枯渇する資源に刃向かうように技術は進歩し、今はもう人がこの冷たい空気を感じることも、機械が駆動を難とすることもない。 そこまでして殺し合いがしたいかね、頭の中に浮かぶ自嘲を押し殺すたびに、この戦闘服で遮られたはずの薄ら寒さを、俺は感じていた。
ガンナー席に戻り計器類を確かめていると、慌ただしい船の甲板を男が一人歩いてきた。 途端にしかめた顔は、ヘルムに隠れ見えていないはずだ。 反面、奴が困惑した様子は、嫌な程に伝わってきた。 遠慮しがちに語りかけてくるその様が、余計に俺をイライラさせた。
「いつでも飛べるようにしておけ」
長々とした無駄話を止めると、それだけ言って口を閉じた。 こいつは二人乗りのガンシップを運用する上でおおかた信頼関係なんてものを求めたのだろうが、それがいかに価値のないものか知らないというだけで俺の不満は募った。 献身的な行動をとることで軍の勝利に貢献出来ると信じている偽善者は大嫌いだ。 そしてそんな野郎に命を預けることもごめんだった。 空中という圧倒的に優位な戦場で戦う俺達にとっては、自分のスコアを稼ぎ出すことや、相手ガンシップとの勝負に執着を見せる狂った人間の方が、よっぽど信用できる。
「ここじゃあ、みんな自分のために戦ってる」
辺りはいつだって明るいのに、空は常に厚い雲に覆われている。 不自然な空間は閉塞感を生み、少しでもそれを紛らわすため、誰もがよく遠くを眺めた。 やせた森が漠々と広がる以外、何も、何一つなかった。
「他人のために戦おうとする奴は、一人じゃ銃を持つことも出来ない屑だ。俺は俺のために狙いをつけてトリガーを引く。お前はお前が生き残るためだけに飛べ」
そいつは突然話しかけられたことに驚いていたが、じきにその意味を咀嚼したようだった。 整備の手を止め、ゴーグルのレンズがじっとこちらを見つめている。 その対話は長く、そして静かだった。 どれ程経った頃だろうか、出撃要請のコールで、俺達は互いに同じ前を見た。
「こんな言い方おかしいかもしれないけど、俺、こいつが好きなんですよ」 「前の相棒は曲芸じみた飛び方ばかりする馬鹿だった。無茶な運転には慣れてるさ」
閉め切られたコックピットは息苦しい。 エンジンが徐々に回転数を上げていく。 吹き上がった雪と共に、機体はゆっくりと、向こうの白へ飛び立った。
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