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クリエイター名 |
西東慶三 |
サンプル
「昔、『神』がこの世界を形作ったとき、『神』は世界の真実を一枚の鏡に封印し、それを世界でもっとも深い洞窟の最深部へ隠した」 この世界には、そんな伝説が伝えられている。 その伝説を信じて、多くの者達がその「鏡」を求めて旅立った。 世界の真実を知るため、「神」の意思を確かめるため、あるいはただ単に名誉や財産を得るため……「鏡」を求める理由は様々に違ったが、生きて戻ってくることが出来なかったことだけは全員に共通していた。
それでも、「鏡」を求めるものは跡を絶たなかった。 そして、若くして天才魔術師と呼ばれるオズモンドもその「鏡」を手にすることを夢見る一人だった。
彼は世界最大と言われる魔法学園で学び、学園史上希に見る好成績で卒業した。 その魔術の腕前はもちろんのこと、博識さにおいては魔法学園の教師陣も舌を巻くことが少なくなく、すでに「知らないことはないのではないか」とまで言われるほどであった。 だが、彼はそれでも満足してはいなかった。 彼は、この世界でもっとも大きな謎、すなわち「鏡」の伝説の謎を解きたいといつも願っていたのだ。
しかし、いくら彼でも、たった一人で「鏡」が眠ると噂される洞窟に向かおうとするほど愚かではなかったし、自分と同じ目的、すなわち自分たちの好奇心、探求心の為だけに「鏡」を探そうとする仲間を大勢見つけることは容易ではなかった。
「どんな男にも、叶わない夢の一つくらいあっていい」。 それが、「鏡」の伝説について語るときの彼の口癖だった。 そう、彼が「ある男」と出会うまでは。
その男は、名をプレスコットと言い、王国でも五本の指に入るほどの力を持つ貴族だった。 彼は理性的で、計算高く、そして現実的だった。 彼が「鏡」の伝説に興味を示すなどとは、誰も考えてみることすらしなかった。 だが、本当はプレスコットも「鏡」の伝説に並々ならぬ関心を抱いていたのだった。 それも、それによって得られる利益がどうのといった打算尽くの理由ではなく、ただ「その謎の答えを知りたい」という理由によって、である。 この男の「鏡」の伝説に対する情熱は、まるで冬のように冷たく静かな男の心の奥で、たった一つ熱く燃えさかる炎のようであったと言ってもいいだろう。
そのプレスコットも、すでに齢五十を過ぎ、そろそろ「老い先短い」と言ってもいい年齢になった。 彼は父祖から受け継いだ領地や財産を倍近くにまで増やし、他の貴族達がどんなに苦心しても出来ないような贅沢もいくつもした。 世間の人々は、もはや彼はやりたいことは全てやり尽くしたのではないかと噂していた。 ところが、彼はまだ「やり残したことがある」と感じていた。 それが、「鏡」の伝説の謎を解くことだというのはもちろん彼にはわかっていた。 だが、かつて「鏡」を求めて赴いた何者も、誰一人として帰ってくることはなかったのだ。 無理だ。「鏡」の謎など、解けるはずがない。 「どんな男にも、叶わない夢の一つくらいあるものだ」。 今までは、いつもその言葉で自分の情熱を押さえつけてきた。 しかし、と、彼は思った。 あるいは、あの男ならやってくれるかも知れぬ。 そう、自分と同じ「夢」を追いかけている、天才魔術師オズモンドなら。
こうして二人は出会い、すぐに意気投合した。 プレスコットが彼の持つ権力と財産を使って捜索隊を組織し、オズモンドがその捜索隊の指揮を執って「鏡」が隠されているという洞窟へ赴くということで二人は合意し、プレスコットは早速国中に告知を出して捜索隊のメンバーを募った。
オズモンド率いる総勢六十人の捜索隊が「鏡」の洞窟に向けて旅立ったのは、それから約三ヶ月ほど後のことだった。
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