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クリエイター名 |
四月朔日さくら |
事実は小説より……?
事実は小説より……?
「佐渡さーん」 そう呼ばれて、佐渡美也子は立ち止まった。後ろから追いかけてくるのは、クラスメイトのひとりだ。 「駅まで一緒に帰らない?」 校則通りのスカート丈をきっちり守っている美也子と身長はそう変わらないのに、太ももがチラリチラリと垣間見えるクラスメイトは、屈託なく笑う。彼女はだれにでも優しく笑う――美也子のような、クラスからわずかに浮いてしまいがちな少女に対してさえ。 美也子はわずかにビクッとしたけれど、小さくうなずいてそれに賛同した。
もうすぐ期末テストということで、部活は基本的に休止状態。校門から吐き出されるセーラー服の女生徒たちは、思い思いに話をしたり笑い合ったりしながら、駅までの道を歩いていく。もっとも12月の木枯らしの中、学校規定のコートを羽織っている生徒も少なくない。 美也子もそれをしっかり守っている生徒の一人だった。 「佐渡さんって、いつもきっちりしてるよねー」 ふと隣を歩くクラスメイトにそう言われて、 「そうですか?」 と尋ね返す。 「だって、校則しっかり守ってるしさぁ。授業だってサボったりしないし、いつも落ち着いてる。なんていうかさ、年齢よりもしっかりしてると思うよ」 「でも、別に大したことができるわけじゃないですよ。成績だって、普通ですし」 ……たぶん、ね。 最後のことばは、あえて言わない。けれど、その応答にすら相手は何かを感じたらしい。 「その敬語! それもさ、いかにもしっかりしたお嬢さんって感じじゃん。クラスメイトなんだからさ、もっとくだけてもいいと思うんだ。違う?」 「……そう、ですか?」 美也子はそう言われて、ちょっと赤面した。別に誰から言われたでもなく常日頃から丁寧な言葉づかいになってしまう彼女としては、意外な言葉だったのだ。 「だって、同い年じゃん。クラスメイトじゃん。いつも三つ編みして、きっちりして、そのほうがすごいと思うよ。もっと気楽に構えていいんじゃない?」 「……つい、くせで」 と返したものの、クラスメイトの意見も確かにもっともなのかもしれない、クラスで何故か浮いてしまいがちなのは、そういう自分の態度が近寄りがたくさせているのかもしれない――美也子はそう思った。 「ええと……じゃあ、こういうふうに話せば、いい、かな?」 ですます口調をいきなりやめるのも照れくさくて、おそるおそる尋ねた。 「うん、そのほうが同い年だなって感じる。ホントはさ、佐渡さんともっと話したかったんだ、あたし」 だって、佐渡さんって、いつも本を抱えてるでしょ? 実は大のミステリー小説好きだと告白したクラスメイトは、そう言ってちょろりと舌を出す。 「佐渡さんなら面白い小説とか知ってるかなーって……いや、どうしてそこで笑うの?」 クラスメイトはくすくすと笑い出した美也子を見て、不思議そうに尋ねる。 ミステリー……それは美也子の周囲には当たり前のように存在するもの。 美也子の近くに現れる『小人の靴屋さん』だって、その一端である。 だけど、クラスメイトは当然ながらそんな世界は知らないで。 いや、知らないほうが幸福な世界なのかもしれない。 事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。 「じゃあ、今度……試験が終わったら、一緒に図書館に行きましょうか」 美也子の言葉に顔をパッと明るくするクラスメイト。 「うん! あたし、楽しみにしてるっ!」 その笑顔が明るくて――美也子もつい、笑った。
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