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クリエイター名 |
観世こより |
一人称テキストサンプル
荷造りを解いた時、一本の鍵を見つけた。 その鍵はひどく古く年代を感じさせるもので、この家の鍵ではないようだった。 僕の家は、父親の仕事の都合で転勤が多い。 この家も先週引っ越して来たばかりで、部屋の片隅には、まだ前の住人の気配が残っている。 この鍵は、もしかしたら今まで住んでいた家の、どこかの鍵なのかも知れない。 古い鍵か……そう言えば昔、まだ小学生くらいだった頃にこんな鍵を使っていそうな、古い、田舎の家に住んでいた事があった。 ふいに昔の事を思い出し、何だか懐かしさに駆られた僕は、昔住んでいた場所に行ってみようと思い立った。
幸い、今は夏休みで学校も休みだ。 新しく越した土地で、知り合いも友達もいない僕には、この夏休みは長すぎる。 たまには昔住んでいた土地を訪れるのも、面白いかもしれない。 そんな事を思いながら、手元の鍵に視線を戻す。
その一瞬、脳裏に何かが過った。 それが何だったのか思い出そうとするのだけど、思い出そうとすればするほど、それはおぼろげになり、記憶の片隅に逃げてしまった。
……今のは何だったんだろう? トクン……と心臓が静かに波打つ。 どこか妙な感覚に囚われながらも、僕は荷解きもそこそこに、今度は旅支度を始めた。
懐かしい思い出を訪ねる旅に向かうために。
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