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クリエイター名  観世こより
一人称テキストサンプル(ライトテイスト・ギャグ)

「……お前ら、真面目にやる気はあるのかっ!?」

HRの教室。怒りに任せて叩いた机の音が、空しく教室に響く。

「青瀬〜、そんなカリカリすんなって。のんびりやろうぜ〜」

「文化祭の出し物を提出してないのは、うちのクラスだけなんだぞっ! 何度も、俺の手を煩わせるなっ!」

しかし俺の叱責も空しく、クラスの奴らはへらへらするばかりで、一向に建設的な意見が出て来る気配はない。俺は眼鏡の端を上げながら、何度目かわからない溜息を吐いた。
……俺の名前は、青瀬彼方(あおせかなた)。珠中市立高等学校1年2組のクラス委員だ。
開催が10月に差し迫った文化祭の出店を決めるHRの時間だと言うのに、クラスの奴らの非協力的な態度に、一向に会議は進まず、俺は苛立っていた。
今は九月だぞ? 本来なら、夏休み前に何を出店するか草案を提出しなければいけないはずだった。
しかし、夏休みが明けた九月になっても、我がクラスは何を出すかという意見さえ出ていない。

「はぁ〜い」

「……なんだ、矢車」

だらだらした空気の中、一際間延びした声がクラスに響く。

「アタシ、女装喫茶がいいと思いま〜す」

「却下」

「え〜、なんでぇ〜!?」

即却下を下した俺に、矢車が意義を申し立てる。
奴の名前は、矢車心(やぐるましん)。クラスでも『変わり者」として名高い男だ。
なよなよした女のような喋り口が特徴で、所謂オカマという種類の人間だ。男のくせに髪を伸ばし、それを後ろでまとめている。

「ははっ、女装喫茶って、それって完全にお前の趣味じゃんかよ〜!」

「お黙りっ! 自分がやりたい企画を言って何が悪いのっ!?」

俺とは次元が違う生き物なので然したる興味もないが、クラス内では誰からも気さくに話しかけられ、人望があるようだ。

「ねえ、あんた達はさぁ、千歳が女装した姿、見てみたくな〜い? きっと、すっごく可愛いわよ〜」

矢車は、髪の毛をくるくると指で巻き取りながら、名指しした生徒の方を見た。

「あの、僕……」

名指しされた生徒は、クラスの男共の視線を一身に受け、困惑の表情を浮かべている。
今、名前が挙がった生徒は、秋月千歳(あきづきちとせ)。
ふわふわした栗色の毛。華奢な体つき。身長もそれほど高くなく、女々しい顔をしている。
そのせいか一部の男子生徒達からは、まるでどこぞのアイドルのような扱いを受けていた。まったく、実に下らない。

「そんな……僕、女の子の格好なんて、恥ずかしいよ……」

秋月は恥ずかしそうに頬を赤らめると、瞳を潤ませ下を向いた。

「……ゴクリ」

そんな秋月の様子に、クラスの生徒の何人かの喉元が動いた。

「……女装喫茶。面白そうじゃね? 俺も女装喫茶に一票!」

「お、俺も!」

一人が言ったのを皮切りに、クラスのほとんどが女装喫茶に賛成の意見を言い始めた。

「お前ら……それは、俺が却下だと言ったはずだ」

拳をわなわなと震わせながら、クラスの男共に告げる。

「え、これだけ賛成がいるのに〜?」

何の億面もなく反論を返すクラスの連中。はあ……これだから、馬鹿は面倒で困る。
埒が明かないと判断した俺は、教師に声を掛けた。

「先生」

「……ん、あれ、今呼んだ? 雑誌読んでて、よく聞いてなくてさ〜」

「…………」

この教師として有るまじき無関心・無責任を誇るこの男の名は、時田智信(ときたとものぶ)。
理科教諭で、俺達の担任だ。いつも着古した白衣を身に纏い、授業以外はいつも何かしら本を読んでいる。
俺は溢れ出んとする怒りを抑え、何とか平静を保ちながら時田に言った。

「……今、クラスの出し物の意見として女装喫茶が上がっているのですが、女装喫茶など学校の風紀から考えて、問題ではないのですか?」

「ん〜、いいんじゃない別に。だって、他に意見もないんでしょ?」

時田は、パラパラと女性週刊誌のページをめくりながら、興味なさげに返した。

「なあ、早く終わりにしようぜ〜。いつまで続けるんだよ?」

無責任なクラスの連中が、また騒ぎだす。

「……」

……こんな馬鹿共に付き合っていても、時間の無駄だ。

適当に意見を言ったツケで、その後どうなっても俺はもう知らないからな。
俺は嘆息すると、この無駄な話し合いにとっととケリを着けるべく、言った。

「わかった。それでは、我が1年2組の文化祭の出し物は、女装喫茶に決定と言う事で、本当にいいんだな?」

「はぁ〜い、意義な〜し☆」

「賛成でーす」
 
 
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