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クリエイター名  タマミヤ
文章サンプル(オリジナルノベル・乙女ゲーム風)

<女性向けシミュレーションゲーム風文章サンプル>


 自然と唇の端から溜め息が漏れた。
 整理がついた、といえば嘘になる。けれど、伝えたいことは全て伝えたつもりだ。――牧瀬さんが好きだってことと。それ以上、私に口を挟む権利なんてない。彼の夢は彼のものだ。嫌だ、行かないで、なんて馬鹿みたいに駄々を捏ねたって、それではただの押し付けにしかならない。
 もう諦めよう。好きってことだけでも伝えられたんだから……。
 オリーブの浮いたカクテルグラスを傾ける。水面は波打ち、店内の照明をきらきらと反射した。これを飲み干したら、今日は真っ直ぐ家に帰ろう。そして泥のように眠ってしまおう。グラスの脚を指で摘み、口元へと運ぶ。
 そこで突然、ポケットに入れていた携帯が激しく震え始めた。

「なんだろう、こんな時間に」

 正直、開く気にはこれっぽっちもなれなかった。暫くの間、私はそれを放置していた。けれどあまりにもしつこく携帯が鳴り続けるので、仕方なく取り出してみる。そして何気なく液晶画面に目をやった。

「えっ――」

 液晶に浮かんでいたのは、見慣れた名前。
 牧瀬。
 反射的に通話ボタンを押し、受話器を耳へと当てる。

「もっ、もしもしっ」
『よう』
「よう、って! 今、飛行機の中じゃっ」
『とりあえず落ち着け。なあ、外、出てこられるか』
「そ、外? 外ってどこに」
『お前が今いる、そこの店の外だよ。どうせ中で飲んでんだろ』
「店の外……――まさか!」

 置いたバッグもそのままに、私はその場を飛び出した。突然駆け出したせいで、パンプスの先が詰まって痛い。それでももう、大人しく留まっていることなんてできなかった。
 まさか、まさか!
 扉を開け、外へ出る。そこには驚くことに、さっきお別れしたばかりの牧瀬さんがゆらりと立っていた。
 ……嘘……だってあのとき、確かに彼は。

「ま、きせさん。どうしてここに……飛行機、乗ったんじゃ……」
「キャンセルした」
「キャンセルって……」
「飛行機は明日の朝一番の便に変えた。スケジュールにはちゃんと間に合うから、心配するな」

 その言葉を聞き、少しだけほっとする。
 すらりと伸びた長い足。夜闇の中で立つ牧瀬さんの姿は、まるで陽炎みたいに見えた。いつもは一糸の乱れもないはずの服装が、今はなぜか乱れている。僅かだが息も上がっているようだ。
 もしかして、ここまで走ってきたのだろうか。でも、なぜ?

「なんでキャンセルなんか」
「あー」

 牧瀬さんはバツが悪そうに鼻の頭を掻いている。

「お前と空港で別れてから、一度は発とうとしたんだ。座席にも座った。ぼんやり窓の外を眺めながら、離陸するのを待ってたよ」
「じゃあ、なんで」
「なんでって」

 彼は口端を引きつらせながら笑った。困ったように眉尻が下がっている。

「ちらつくんだよ、お前の顔が。……お前が俺を呼ぶ声が。目ぇ瞑って、無理やりにでも眠っちまおうかとも思った。けど駄目なんだ。ははっ。おかしいよな、今更こんな気持ちになるなんて。今まであれだけお前と一緒にいたってのにさ。あのときお前に『好きだ』って言われてなかったら、もしかしたらこの先も気付けなかったかもしれない」
「牧瀬、さん……」
「だから、離陸する前に飛び出してきた。タクシーに飛び乗って、気が付いたときには自然とここに向かってた。どうせお前、ひとりで飲んでんだろうと思ったから。当てずっぽうではあったが、正解だったみたいだな」

 牧瀬さんは瞳を切なげに細めて、熱っぽく私を見る。こんな彼の目は初めて見た。初めて見る彼の一面。酷く切望するような、艶のある瞳。私の心臓は早鐘のごとく打ち鳴らされている。このままでは、すぐにでも破裂してしまいそうだ。

「有希」

 彼が甘く私を呼ぶ。

「今でも俺が好きか。お前を残して旅立とうとした、俺のことが」
「……」
「答えろ、有希」
「……好き、です」

 握り込んだ手が小さく震える、搾り出した声はみっともなく掠れた。

「嫌いになんてなれるはずない。私は――私は牧瀬さんのことが好きです。いつもは冷たくするくせに、たまに優しくしてくれるところも。全然私の気持ちに気付いてくれない、鈍感なところも。……せっかく諦めようとしたのに、諦めさせてくれない、そういうずるいところも……全部、全部好きなんです」

 熱の塊が胸の奥からせり上がってくる。じわりと目頭が潤んだ。言葉が喉に詰まってうまく出てこない。視界が歪んでくる。駄目だ、堪えなきゃ。

「このままじゃ、私、送り出せない……牧瀬さんともっと一緒にいたいって、わがまま言っちゃう。牧瀬さんの夢を応援したいって、本当に思ってるのに。なのに……離れたくないって思ってしまうんです。ごめんなさい、ごめんなさ……」

 ふわり。

「え――」

 うつむいていた私は突然、自分の身体が何か温かいもので包まれるのを感じた。続いて感じたのは、グレープフルーツの香水の匂い。鼻腔に漂う香りが、柔らかく私を受け止めていく。
 これは……牧瀬さんの香水?

「無駄に謝るな、馬鹿」

 気がつくと私は、牧瀬さんの腕の中にいた。

「言っただろ。気付いたんだよ、俺も。お前が好きで、好きで、手放したくないってことに。……わざわざここまで言わせんなよ。気付かせてくれたからには、責任取ってくれるよな?」

 私を抱き締める腕に、なおさら力が込められていく。

「明日の朝の便のチケット、二枚取った。何も持たなくていい。そのまま着いてこい。後は俺が何とかしてやる」
「えっ、え、ええぇ?!」
「俺がこういう男だってことは、お前が一番よく知ってるはずだろ?」
 
 
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