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クリエイター名  ゲキガンガー
勇者になるのも楽じゃない!

『勇者になるのも楽じゃない!』
作ゲキガンガー
『僕の将来なりたい職業』
                  ヴァン・リー国立ユグドラシル学院一年    ルークス・シルヴァリア

 僕の将来の夢は勇者になる事です。それも、ただの勇者ではありません。お伽噺に出てくるような伝説の勇者になる事です。どんな強大な敵にも屈せず立ち向かい、そして必ず勝利し多くの人を救う、そんな勇者になる事が僕の理想です。
確かに現実は非情です。
 僕達の国を支えていたバブル経済は当の昔に弾け、現在は長い長い不況が続いています。立て続けに起こる災害。そして、勇者ジン・フェルネロフ率いる軍団の東方大遠征による多数の死者、寿命が延びてきた事による高齢化問題、生産年齢人口の低下など、多くの問題があります。
 そして何よりも深刻なものが若者の雇用問題です。現在、正規ギルドに入れる若者は二人に一人もいません。正規ギルドに入れなかった人は、最近、法律の改正により出来た派遣ギルドに入るか、農民となるか、低賃金の単純な労働を行うか、はたまた失業者として露頭に迷うかしかありません。雇用が安定していない事による治安の悪化も我が国の問題となっています。最近は、就業できずに盗賊になる若者も増えています。
 加えて、そういった厳しい環境の中、『勇者』と『役人』を志望する若者は多く、競争は激化しています。
 しかし、そんな厳しい状況であるからこそ僕は、この学び舎で三年間を通して学び、成長し、二年後に来る就業戦線で勝ち抜き、見事正規勇者ギルドに所属したいと考えています。
 そして、一歩でも僕が理想とする勇者に近づいていきたいです。

第一章「勇者になるのは本当に楽ではなかった」

「――以上が、私が御ギルドを志望した理由です!」
 ルークス・シルヴァリアは面接の最後をそう締めくくった。内心では最高の出来だった。多少は緊張もしたが、それも致し方ない。難関の筆記試験と実技試験を潜り抜け、今初めて大手勇者ギルド《白狼ギルド》の面接を受ける事が出来たのだ。この面接により、勇者になれるかどうかが決まる。幼き頃から想ってきた夢だ。ついにその夢が叶おうとしている。
 ルークスは無難な回答で面接を切り抜けた。自分が勇者という職業を志望した理由、どういった勇者になりたいのか、どういうところが勇者に向いているのか、しっかり、はっきり、テキパキとルークスは伝えたつもりだった。面接官の評価も上々の様子だ。何度も頷き、紙にメモを取っている様子が伺える。相手は《白狼ギルド》の重鎮達である。今でこそ現役を引退し、運営側に回っているが、昔は名を馳せ、いくつもの武勇を打ち立ててきた歴戦の古強者だった。そういった面々を相手に面接をしたのだから、緊張しても仕方がない。
「それでは次――受験番号1048番、フィオナ・スカーレット君」
「はっ、はい!」
 ――次の受験者が呼ばれる。とはいえ、面接会場には二人しかいなかったのだが。最初は千人位はいたであろう受験者も、最後に残ったのは二人だけだった。隣の椅子に座っているのは、あどけない少女だった。整った顔立ちは間違いなく可愛い分類に入るし、未成熟な美しさは、将来、類まれな美女になるであろう事を予見しているようだった。
 ただ、どことなく幼さと頼りなさを覚えるその雰囲気は、冒険に出てモンスターを相手に闘うよりも、野原で花でも摘んでいる方が似合っている。
 普段なら明るく元気な印象を受けるのだろうが、今の彼女からはそういったものは見受けられない。
 明らかに面接と言う場に飲まれていた。緊張し過ぎているという事が目にみえてわかる。恐らく、今横にルークスがいる事すら認知していないだろう。それくらい余裕がなく、周りが見えていない。額に浮かんでいる大量の汗もまた緊張の度合いを表している。
 ――ルークスは率直に思う。どうしてこんな奴が勇者ギルドを受け、しかも面接にまでたどり着いたのか。彼女にはもっと相応しい職業があるのではないか。とはいえこの不況下だ、ろくな仕事はないかもしれないがそれでも女だったらいくらでも働き口はある。主に体を使った悪条件の仕事にはなるが、彼女のような幼い容姿を好む客も多数存在する。
その見解は、面接官側も同様のようだった。明らかにルークスの時とは面接の雰囲気が違う。嘲りの色が見られる。幾人かの面接官は下衆な笑みを浮かべる。
「――えー、それではフィオナ君。まず、君の特技や強みを教えてくれるかな?」
「その……お料理とお洗濯とお掃除なら誰にも負けません!」
 幾ばくかの沈黙を置いて自信満々で答えた。
 ――ここは勇者ギルドである。決して家政婦を雇う場ではないのだ。
 面接官達の下衆な笑みは増えていく。面接の空気もまた弛緩していった。
「――君、勇者は大変な仕事だ。国民を守る為にモンスターと闘わなければならないし、危険な冒険にも出なければならない。時には命を落とす危険もある。それで、君は大丈夫だと思うのかね?」
「その……えっと……頑張ります!」
 強く言い切るが説得力は皆無だった。もはや場の空気は面接の形式を保てずにいた。一人の少女を複数の男達が詰るような場になっていた。
 そもそもの話、この国において男女の雇用機会均等化は完全な意味では果たされていない。勿論、完全な社会というものが不可能であるのは承知ではあるが。
 女性にして、伝説的な勇者である《白騎士》アンジェリアの数々の武勲のおかげで、女性の地位向上。雇用意識の改善、法制度の改善は進んではきているが、それでも完全に差別がなくなるわけではない。
 そして、特に彼等のような年配の人間は、男が働き、女は家庭を守るものと本気で信じていた世代でもある。しかし、今の不況、そんな事をしている余裕はこの国にはない。
 ともかく、これ位の年配の方々が女性に対して差別的な見解をするのは、ある意味当然といえた。純粋に、昨今の女性の社会進出が面白くないのだ。
「――うちの息子が、それはもう大層優秀で、今度の役人試験にも合格したんだが、まだ独り身でね。料理や洗濯が得意なら、その息子を紹介してあげようか? その方が君の為だろう」
 面接官のうちの一人が、嘲りと共にそう言った。そして、哄笑が響く。
「そうだ。そうするといい」「君にはお似合いだよ」そう、面接官。面接はもう、面接の形をなしていなかった。
「違うんです! 私はお嫁さんになりたいんじゃないんです! 勇者になりたんです!」
 少女――フィオナは泣きそうになるのをこらえながら賢明に叫び、訴える。だが、その真摯な訴えも、面接官の耳には届かない。ルークスは肩を震わせながらも堪える。ここで何かしでかしたら、幼き頃からの夢が潰えるのだ。ここで余計な真似をするべきではなかった。
「よろしい、では、勇者にさせてあげよう」
 手をポンと叩き、そう提案する面接官のうちの一人。
「本当ですか?」
 その言葉によって、ぱーっと表情が明るくなるフィオナ、だがそれも長くは続かなかった。
「ああ。本当だとも。ただし、おじさんに一晩付き合って貰ってからだけどね。がっはっはっはっは!」
 そして、この時最大の嘲笑がその場を包んだ。
 フィオナも、その意味を察せない程無垢ではいられなかったのだろう。ただ俯き、恥辱にまみれながら頬を真っ赤に染める。
 哄笑は止む事はなく、誰もそれを止める者はいないかと思われた。
 ――が。
「ふざけんな!」
「え?」
 俯いていたフィオナは、驚いた様子で顔をあげる。
 ルークスが立ち上がり、叫んでいた。さっきから耐えていたが、流石に耐え切れなかった。それが勇者のやる事か? 彼の理想は見て見ぬふりなど許さない。
「この子は本気で勇者になりたいって言ってるんだ! ちゃんと聞いてやれよ! それでもあんた等勇者なのかよ!」
 臆せず、ルークスは叫び、投げかけた。
「……ふん。良いのかね、ルークス・シルヴァリア君、我々面接官にそんな態度をとって君は我がギルドに新人として入って貰おうかと思ってたんだが、そんな態度では入れる事はできんね。今その非礼を詫びるなら、許してやらん事もない」
 面接官の一人が,興が冷めた様子で言う。
「いいのかね君、そんな態度では君を勇者にする事はできんよ!」
 そのうちのもう一人が、少しいらだった様子で言う。楽しみを邪魔されて、不機嫌になった様子だ。男達の何人かは、煙草を吸い、不機嫌そうにそれを灰皿で押し潰す。
「ああ。そんなのこっちから御断りだ。あんた達なんて本当の勇者じゃない。俺はあんた達を本当の勇者だとは認めない」
「ふん。今まで誰のおかげでこの国が平和だったと思ってるんだ。我々勇者がこの国をモンスターの手から守り、他国との抗争の際には率先して闘ってきたからではないか? この程度の褒美、当然だとは思わんのかね? 何も知らん若造が。理想ばかり見おって」
 面接官にも理はあるのだろう。だが、それが夢に対して真摯な若者を侮辱していい理由にはならない。少なからず、そんな事をする奴を本当の勇者だとはルークスは認めなかった。
「こい」
 ルークスはその言葉を無視し、フィオナの手を引いて立ち上がらせる。
「あっ」
「こんな所にいる必要はない。俺と来い」
「あっ……はい。わかりました」
 フィオナは頷いた。

 
 
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