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クリエイター名 |
麻鞍祐 |
フタリジカン
大すきって、この心に持っていることは簡単で。 でも、それを言葉にするのは、とても難しいんです。 「あ、あの、私、す、す、す・・・」 そこから先、言葉が全くと言って良いほど進みません!! 目の前には、大すきな彼が、私の言葉を待ってくれているというのに、何だか、自分がふがいなさすぎて、泣けてきそう。 けど、そんな私の性格をよくわかっている翔くんは、しかたねぇな、って笑ってくれた。 「お前さぁ、もうちっと、思ったことを素直に出す練習、した方がいいと思うぞ。そりゃ、何でもかんでも、言えば良いってもんでもないけどさ」 「うん」 それは、すごくよくわかってる。 昔から、私は、不器用で、何をやってもうまくいかなくて。 そのせいで、だんだん、人と話すことをやめてしまっていた。関わって、うまく伝えたいことが伝えられなくて、酷く言われるのが、ただただ怖くて。 そんな私を、救ってくれたのが翔くん。 どこまでも真っ直ぐで、ストレートに感情を表現するのが得意。運動神経もすごく良くて、憧れてる女の子も多い。 私もその一人で、こうと決めたことは絶対にやり抜く。妥協はしない。皆が嫌がるようなことも率先してこなしていく。 そんな姿に憧れていて、それが、いつしか、恋愛感情へと変わっていった頃、 『俺さ、ずっと、お前のこと見てたんだ。んで、気付いたら、すきになってた』 そう、言われた時、私の頭はパニックになって、もう、本当に何を言って良いかわからなくて。 きっと、すごく、変な子だったと思う。 けれど、翔くんは、そんな私を笑ったりせず、深呼吸してゆっくりでいいから、って、私の言葉を待ってくれた。 『あの、私も、です・・・』 絞り出せたのは、たったそれだけの言葉。 長い間翔くんを待たせたのに、すきって伝えることも出来ないなんて、何て不甲斐ないんだろう。 そう思っていた私に、翔くんは優しく笑って、 『サンキュー。すげぇ嬉しい』 って、そう言ってくれた。 それから、無事、私達は恋人同士になれたのですが、 「千紘ー、俺、待ちくたびれちまうぞー」 「う、ごめんなさい」 二人、勉強の為に残った放課後の教室。 急に、翔くんが、言いたいことを口に出す練習をしようって言いだして、いつの間にか、勉強会が、私の訓練大会になってた。 「ばーか、何謝ってんだよ」 私のおでこを人差し指で押して、いたずらっ子のような笑顔を浮かべてみせる翔くん。 年相応の、無邪気な笑顔。でも、そんな表情を、心の底から、かっこいい、って思えて。 「お前に無理させたくて言ってるんじゃないぞ。ちょっとでも、千紘の為になればなって、ちゃんと考えてるんだからな」 「うん、わかってる」 そう、わかってるんだ。 今まで待ってくれていたのも、こうして、私にちゃんと言葉で伝えることを教えようとしてくれているのも、全部、翔くんの優しさ。 それなのに、私は、答えられずにいる。今まで生きてきて、そのトラウマが、こんな形で自分を苦しめるなんて思わなかった。 言えないことがつらいんじゃない。翔くんに、自分が思っていることすら伝えられないのがもどかしい。 今までは、言葉にしなくてもわかってくれて、それが嬉しいって、そう思っていて。けど、それは、翔くんの優しさに甘えてるだけだって、ようやく気付いた。 だから、何気なく、もっと素直に言葉にできたら良いのに、って呟いた私の言葉に、翔くんは、いきなり、じゃあ練習しよう、って言ってくれたんだと思う。 「何かさー、千紘、無理に言おうとして、力み過ぎてるんだって。ほら、俺の方、ちゃんと見てみ?」 ぽんぽんと肩に手を置かれて、それから、翔くんは真っ直ぐ私を見てくる。 うっ、真剣な目が私を映していて、それがわかるだけで、もう、直視できない! 結局、居た堪れなくなって、思わず目を逸らそうとした瞬間、 「千紘!」 不意に、大きな声を出されて、思わずびくっとしてしまう。けど、おかげで、恥ずかしいって気持ちは吹き飛んで、真っ直ぐ翔くんを見つめることができた。 「目を逸らすな」 「はい」 「それから、ちゃんと、手を握って」 「はい」 「お前の中にある気持ち、わかるか?」 「はい」 「じゃあ、俺のこと、嫌い?」 「はい、って、えぇ!?」 今までの流れで思わず頷きかけたけど、今、何気にひどいこと言った!? 私。 一瞬、翔くんの言葉が理解できなくて、頭の中がぐるぐるしたけど、完全に頭が理解するよりも早く、私は思わず叫んでた。 「嫌いなわけない! 大すきで、大すきだから、言葉に出来ないんです。そのせいで、翔くんを困らせてしまうこともあるけれど、私の中にある、翔くんをすきな気持ちは間違いなく、本物、です・・・」 最初は勢いに任せて言っていた言葉。けれど、だんだんその意味に気付いて、恥ずかしくなって、言葉尻は、翔くんに聞こえたのかどうかすら定かじゃない。 けど、握られた手が、ぎゅっと、強く握り返されるから。 それだけで、すごく嬉しくなった。 「まぁ、ギリギリだけど、合格!」 「ほ、ほんとですか!?」 翔くんが笑って言ってくれるから、嬉しくなって、思わず身を乗り出したら、 「ッ・・・!」 不意に、唇に柔らかい感触。 え、これって、これって・・・! 「千紘、すげー頑張ったから、ご褒美な?」 そう言って、またいたずらっ子みたいに笑うから。 私の頭は一気に臨界点を超えて、もうショート寸前。 けれど、 「この調子でさ、ちょっとずつで良いから頑張っていこうぜ。あ、何なら、ご褒美目当てに頑張ってくれても良いけど」 「翔くん!」 恥ずかしい台詞をさらりと言われて、思わず大きな声を出してしまったけど、そのことすら、今までの私には出来なかったことで、気付いたら、2人同時に笑っていた。 すきだから、すきってはっきり言えない。 でも、翔くんは、すきだから、すきってはっきり伝えてくれる。 こんなアンバランスな2人だけど、だからこそ、こうして、一緒に笑いあって、幸せを分かち合えるんだ、って、そう思った。
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