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クリエイター名 |
龍川 那月 |
親友
俺の何回目かもわからない残念会も終わり、俺と親友は住宅街を歩いていた。 「はぁ…」 満天の冬の星空の下、街灯に照らされて、溜息は白い息になって空へ上がっていく。 「どうした?」 隣で親友が声を出す。 その息も空へ消えた。 「何で俺長く続かないんだろう…」 「………」 親友は長いため息を空に送って、飲み足りないとか言ってさっきコンビニで買ったチューハイを口元に持っていくのが目の端に見えた。 親友は一口をそれに口をつけてから俺の頭をぽんぽんとやって、 「仕方ねぇよ」 そういった。 「何でだよ?」 頭を撫でられたことより、その言葉に俺は引っかかった。 確かにこんなことは今に始まったわけじゃない。 付き合ってた彼女と別れて、こいつとかがなぐさめに来ては残念会して、元気出して、また違う子に告白して、付き合って、別れて、なぐさめられて…… いつもこの繰り返し。 「……俺、そんなにつまんないかな?」 「別に」 「だってさぁ〜」 自分で言うのもなんだけど、顔は悪い方じゃないと思う。 告白は上手くいくんだから。 そこまではいつも上手く行くんだから……さ。 でも、長続きしないって事はきっと俺のどっかが駄目なんだろう。 性格かなぁ。 それか変な癖があるとか? もしかして俺……顔しか見られてない? 「うわ〜もう、駄目だぁ」 「何が?」 「俺、顔だけかなぁ?」 「そうでもないんじゃない?」 「でもさぁ〜」 「次はもっといい子が見つかるって」 「そうかなぁ?その根拠は?」 「俺はお前がいいやつだと思うから」 「それで彼女と長続きしないってのはどういうことだよ」 「女の方にお前を見る目がないんじゃねぇの」 「それって遠まわしに俺に女を見る目がないって言ってるだろ」 「そういう訳じゃないよ。ただまだ巡り合う時期じゃないんだろ?」 「時期?」 「そ。ちゃんとそういうのはうまくできてるんだよ。まあ、男磨きだと思えばいいんじゃねぇ?」 「男磨き……ねぇ」 俺は溜息をついて煙草に火をつけた。 煙が星空に上がってく。 「そういや、お前は彼女とどうよ?」 「俺?」 親友は一瞬止まって照れくさそうに笑った。 「可愛いよ。そういやお前に会いたいって言ってた」 うわーむかつく。 「ふーん。何で?」 「たまにお前の話するからじゃない?」 ふーん。 「お優しい彼女だこって」 俺なんて……
『その人と私どっちが大事なの?』
訳分かんねぇ。 ただ、親友の話しただけだぜ? そいつが泊りに来るって前々から言ってたからその日のデートは無理って言っただけだぜ? そしたらそういわれて、即答出来なけれなければ、はい、さようなら。 で今に至る。 何だよ、それ。 なんで、お前は彼女にそんなに優しくされて、俺はこんな扱いな訳? 訳分かんねぇ。 彼女と親友だぜ? そんなの天秤にかけられる訳ないだろ? 「お前彼女に俺のことなんて言ってんの?」 「うーん、昔からの親友」 「そしたら?」 「『昔からかぁ。仲がよくて良いね。そんな人なら今度会ってみたいな』って微笑ってくれんの」 ってにやにやしてやがるが街灯の光で見えた。 むかつく。 むかつくから近くにいたそいつの頭を叩いた。 「いって〜」 いい音がして頭を抱えるのが見えたら少しすっきりした。 「……何すんだよ」 「傷心の俺の前で惚気てんじゃねぇよ」 「はぁ?お前が訊いて来たんだろ?」 「でも、むかつく」 「……はいはい」 そう言って微笑うから今度は殴ってしまった。 でも、こいつは本気では怒らない。 どんなに俺がいじめても。 たんこぶが出来ても、青痣が出来ても。 こいつは分かってくれてる。 やばい怪我はしない程度に加減してること。 ちゃんと好きだからやってるんだってこと。 少しすっきりした俺はふと思った。 こいつが女だったらよかったのに、って。 そしたらきっとうまくいった。 こいつと友達みたいな恋人になって毎日幸せにやれたかもしれない。 「なんでお前、女じゃねぇの?」 「え? 何が? どういうこと?」 ってきょとんとした顔しやがるからまた殴った。 「何すんだよ」 「知らねぇ」 「何だよ、それ?」 「あぁ、もうなんでお前女じゃないわけ?」 「はぁ?」 「しかも何でこの気持ちがわかんないわけ?」 「訳分かんねぇよ」 「分かれよ!」 また殴る。 「いってー」 傷心の俺の心がわからないなんてなんてデリカシーがない。 こういうやつには。 「天誅」 「本気訳わかんねー」 そう言いながら親友は笑っていた。 殴ってすごくすっきりしたはずなのに、その笑顔をみていると何かちょっと腹が立った。 こいつ彼女の前でもこんな風に笑うのかなとか思って。 ? 何で俺腹立ってんだろう? よく分かんねぇ。 よく分かんねぇけど… むかつく。
もう、今日はこいつすげーいじめる。 決定。 今決めた。 絶対いじめぬいてやる。 ……怪我はさせねぇけど。 「今夜は覚悟しろよ?ぼっこぼこにしてやんよ」 「ぼっこぼこはちょっとなぁ」 そう微笑む親友に、 「いや、駄目だね」 そう笑って俺が親友を叩いたその音は空に呑まれて俺のもやもやと一緒にすぅと消えていった。
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