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クリエイター名  貴波雛
サンプル


・・・気ニクワナイ奴ガイル。

成績優秀。品行方正。美人で、やけに人当たりのよいアイツ。
どっから見ても非の打ち所がない。
そんなお嬢様が、何でこの激しい世界に身を置こうとするのか・・。

あたしの名前は、ソレイユ=ショルン。
医師会所属、魔法医養成学校薬学科。2年。
この世界の殆どの魔法医がここで、勉強して巣立っていく。
成績は常にトップ・・っと言いたいところだけど、実のところは”アイツ”
に入学してから、負け続けている。
そもそも、アイツとは学科が違うから、比べてもどうしようもないのだけれど。

”アイリス=サーシャイン”――

この学校始まって以来の秀才で、先輩魔法医達も一目置いている存在。あたしにしてみれば、そんなことはどうでもいい。
ただ、好奇心が湧く。
澄ました顔の裏にどんな顔があるのかってね。

何を言おうと、笑顔でかわすアイツの本音。
その笑顔がくずれる時はいったい、どんな時なんだろう?

「あら?アイリス。今日もお勉強?」
放課後のこと。アイリスが、図書室へ足を運ぼうとしているのが目に付いた。アイリスはあたしの声に振り返る。そして、いつものようにニッコリと笑うと、言う。
「ええ、今日の授業のことでわからないことがあるから」
「毎日、よくやるわね」
ただ、無言で笑みを浮かべるアイリス。
・・実に不愉快だわ。
今日こそは、その笑顔の裏の顔を見てやる。なぜかそんな気分だった。初めて声をかけてから、どんな嫌味を言ってもくずれることのない”心のない笑顔”。
「あたしも一緒にいいかしら?教えてほしいことがあるのよ」
「・・私がわかることならば」

アイリスは席に荷物を置くと、さっそうと辞書を取りに行ってしまった。
あたしは向かい側にすわり、とりあえずカムフラージュのノートを取り出す。もちろん、勉強でわからないことなんてない。あたしが教えてほしいのは・・。
「えっと、ソレイユさん・・だったかしら?」
「ソレイユでいいわ」
「じゃあ、ソレイユ。ちょっと先生のところへ行って、持ち出し禁止の本の閲覧許可をもらってくるから。もう少し、待ってて」
「・・はいはい」
あたしの返事を確認するなり、アイリスは司書室へ入っていく。
本当に、抜け目がない。でも、あたしはこの世に完璧な人間が存在するなんて思ってない。ふと、アイツの荷物に目を向けた。
勉強道具のみ?手を触れようとした、瞬間・・・。
自分の手が、弾かれるのを感じた。
「なっ・・!」
――結界――??
普通、自分の荷物に結界なんてはる?!
しかも、どこでそんな魔法覚えるわけ?!
「手、大丈夫?」
急に声をかけられ、バッ!と振り返る。アイリスは首をかしげてあたしをじっと見ていた。
「あ・・だ、大丈夫よ」
「そう。ならよかった」
アイリスは分厚い本を机の上に置くと、一息ついてあたしの前にすわる。
「アイリス。あんた、荷物に何の魔法かけてるのよ?」
大丈夫なんて、嘘だった。じんじんと痛みが今頃になって湧いてきている。
「ああ、ちょっと試してみただけよ」
相変わらずの笑顔で本から顔をあげるアイリス。
「試してみたって・・・」
「ん?」
笑顔の圧迫・・・というのかしら。こういうの。この子の笑顔って、有無を言わさず、人を黙らせる。美人なせいもあるんだろうけど。歯がゆい思いで黙っていると、アイリスが急に顔をあげた。
「そういえば、ソレイユの教えてもらいたいことって何?」
「ああ・・・」
ニヤリと笑う。わざわざ自分からその話を振るとは。あたしは何も「勉強で教えてもらいたいところ」なんて、一言もいってないのに。
「何で、あんたみたいなお嬢様が、医者なんて選んだのさ?あんたみたいなお嬢様は、家でゴロゴロしてればいいのに」
スッ・・・と音をたてたかのようだった。笑顔が消える瞬間――。あたしはゾクッとした。氷のような瞳が、あたしの顔をじっと見つめている。
「・・・聞いてどうするの?」

さっきのは錯覚だったのか・・。アイリスは笑顔でつき返してきた。
そして、サラリっと言葉を続けた。
「私に、親はいないわ」
「は?」
ずっと、ぬくぬく育ってきたんだと思ってた。今のはあたしにとって衝撃的な事実だ。家庭環境に、問題でもあったのか・・。さっきの冷たい瞳が、脳裏から離れない。
「いつも笑顔でいる、あんたが気にくわないのよ」
「・・知ってるわ」
別に、トップをとることに意義は感じない。ただ、笑顔がくずれてしまえばいいっと思ってた。でも、その崩れた笑顔の裏は、冷たい氷。
それを知ってしまった今は。

― もう、後には引けない。

アイリスは、微笑を浮かべながら、あたしを見据えていった。
「いつもの嫌味攻撃は、私を怒らせようってわけ?」
そうして、わざとらしくニッコリ笑ってみせるアイリス。

・・・このっ・・・。
やっていたこと、思惑がすべてバレバレ。怒りを隠し、あたしも笑顔で返す。しかし、ここまであたしの思惑を読むとは。怒りが爆笑にすれ変わる。
急に笑い出したあたしを、アイリスはきょとんとした顔で見ていた。
さすがに、そこまでは読めなかったらしいわね。
自分の中の好奇心が、音をたてて騒ぐのがわかる。
「あんた、面白いわね」
あたしはニッと笑って見せると、席を立った。
「これから楽しい学校生活になりそうだわ」

そう、ここからがはじまり。あたしたちのゲーム。読むか、読まれるか。
気に食わない笑顔の裏の氷。それにはもっともっと奥深いものがあるんじゃないかなと、思う。あたしはそれを知りたい。


翌週から、あたし達は噂の的となっていた。最も、目立つのが苦手と見えるアイリスは、嫌がっていたんだけど。
『あの、ソレイユとアイリスがつるんだ!』
先生達は大喜び。薬学科No.1のあたしと、治療専門科No.1のアイリス。普通、魔法医っていうのは2人で一組なの。薬と魔法。内科と外科。そんな感じで切っても切れないつながりってわけ。
大袈裟にも、「2人が組めば、治せない病気はない。」なんて噂には思わず笑っちゃったけどね。

「アイリス〜?」
いつもの『ゲーム』をしようと、アイリスを教室に探しに行くが、見当たらない。教室に残ってる子に聞いても首を横に振るばかり。
おかしいなぁ・・。
あたしはため息をついて、タバコでも吸おうと、屋上(絶好の隠れ場)へと足を向ける。
――あれ?
見慣れた後ろ姿。でも、何か様子が変・・?
「アイリス?」
背中がビクッと跳ね上がった。おそるおそる後ろを振り返る彼女。

――え?!

「ア、アイリス?」
彼女の頬につたう、涙のあと。
「な・・・。」
驚きのあまりあたしは言葉がでない。

タバコの灰がポトリとおちた。


―――。
「落ち着いた?」
どうやら彼女、失恋したらしい。あたしの吐く煙が、風に揺られて静かに空に消える。相手は魔法医師で、あたし達の先輩。話によると、結婚が決まったらしい。
「・・うん。」
こうして見ると、普通の女の子なんだよね。やっぱり。まぁ、屋上で一人泣いてるあたりが、プライドが高い証拠なんだけど。
アイリスは、タメ息をついて空を見上げた。
あたしは、タバコをぽいっと捨てると、アイリスの鼻を思いっきりつまんでやった!
「ひっひらいられぇ!(いっいたいわねぇ!)」
鼻を押さえてあたしをじっと睨む。
「どう?一瞬で忘れられそうでしょ?」
「・・ええ」
アイリスはあきれたように笑った。
「いや〜、それにしてもあんたも普通の女だったのね」
「どういう意味よ。それ」
「恋に破れて、一人で泣きますかぁ〜?」
途端、彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。あたしはにやりと笑った。はじめて見せる、こんな表情に。
「ん?ほら?笑ってごらん?いつもみたいに!」
勝ち誇るあたしに、アイリスはわなわなと震える。ん?今度は怒るかしら?しかし、アイリスがとった行動は・・。
バッ!とあたしのポケットから、タバコを取り出すと、一本に火をつける。
そして、チラリとあたしを見た。
あたしもため息をついて、タバコをくわえ、アイリスの吸うタバコに近づける。こげつく音が響いた。
2本の煙が、交わり、空へかすむ。
「あんた、どんな人と結婚するんだろうね〜。」
ふいにあたしが口にした言葉に、アイリスはタバコを持った手で頬杖をつきながら振り向いた。
「・・さぁ、ね」
「理想は?」
アイリスはちょっと考えて言う。
「自分にないものを持ってる人・・かな」
「それって・・・?」
アイリスは、ふふ、と肩をすくめると困ったように笑う。
「ずっと一人で生きてきたわ。その為には強さが必要だった。でもちょっと履き違えてたみたい。つらくても笑わないと・・っていうのが、いつの間にか自分の強さだと」
「へぇ。でも最近あんたかわったじゃない」
あたしの言葉に、どうかな、と首を振ると、アイリスは仰向けになり空を見る。
「どっかで、私を必要としてくれる場所を探すため」
「・・医者になろうとしたってわけね」
あたしはようやくわかった。この子は誰よりも、自分に一番厳しいのだと。そしてきっと誰よりも強いかもしれない。ふっと笑う。
その笑いに怪訝そうな顔を向けるアイリス。
「・・もう必要としてるわよ」
「え?」
「タバコは校則違反よ。悪友さん?」
ハッと気づいたようにアイリスは、まじまじとタバコを見た。顔を見合わせ、声を立てて笑う。

アイリスの本当の笑顔は、とってもきれいで。
何だか、独り占めしたい気分だったから。
あたしの毒を吐くための次のターゲットは・・・。

他でもないアイリスの旦那様になるんだろうなって。

結局、あたしの好奇心からはじまったゲームは、あたしの負けってことにしておいてあげる。
品行方正なお嬢様は、タバコなんて吸いませんからネ?
実はそれが最初ッから読み違えてたわけで。
ま、次は負けないけど。

それから7年。
あたしもアイリスもちゃんと医者になって、今では高位魔法医師として活躍中。
昔の噂が本当になったってね。
「2人が組めば、治せない病気はない」

アイリスはとある子との約束を果たすために、ここを離れたけど。
・・いつでも帰っておいで。
ここも、あんたの場所なんだからね。
悪友の場所、空けておいてあげる。

次のゲームは・・。
「いい旦那様に、どっちが早く巡り会うか?」

負けないわよ。アイリス!

 
 
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