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クリエイター名  小鳥遊美空
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『スプーンとぼく』

 カッ、カッ、カッ。
 今日もぼくはスプーンで壁を抉る。
 スプーンの先が壁に接触する度に、ミリ単位のコンクリート片が飛んでいく。
 壁の向こうにはぼくの知らない世界が在る。
 まだ見ぬ未知への興奮がぼくの手を加速させる。

 カッ、カッ、カッ。
 今日もぼくはスプーンで壁を抉る。
 スプーンの先が壁に接触する度に、少しづつぼくは前へと進んでいるんだと実感できる。 ただがむしゃらに、暗く先の見えない闇の向こうの光を求める。
 まだ見ぬ太陽への渇望がぼくの手を加速させる。

 カッ、カッ、コツン。
 今日もぼくはスプーンで壁を抉っていた。
 その刻は、唐突にやってきた。
 小さな小さな穴の向こうから溢れ出る光。
 眩い其れに目を細めながら、ふとスプーンへと視線を落とす。
 数日ぼくと共に過ごした相棒は、変な方向にひしゃげ、無数の細かな傷がついている。
「ありがとう」
 そっと一言呟き、胸ポケットに仕舞う。
 そうして、ぼくは未知との邂逅を果たす。
 穴の向こうには楽園が存在した。
 黒、白、桃、赤、黄、緑、青。
 様々な色彩に包まれた、たわわな果実達。
 ぼくは感動の涙を流し、喝采する。
 努力は必ず酬われる、ぼくはそう実感できた。

 次の日、更衣室に開通させた覗き穴はあっけなく塞がれていた。
 だけどぼくはめげなかったんだ。
 諦めなければ、きっと願いは叶うって、知ることができたんだから。
 何度でも穴を掘る、埋められたってね。

 あれから数十年。
 その時の燃えるような情熱があったからこそ今のぼくが在る。
 建築史に残る長距離地下トンネル。
 画期的な採掘システムを考案し、導入した最大の功績者として。
 開通記念式典の挨拶の台に立つ。
 胸ポケットから古びれたひしゃげたスプーンを取り出し、ふぅ、と息を吐く。
 ぼくの大事なお守り。
 胸ポケットにしまい直し、ぼくはマイクを握った。
 
 
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