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クリエイター名  小湊拓也
武装ヒーローと怪人少女

 むっちりと強靭な太股が、短いスカートを跳ねのけて躍動する。下着の清楚な白さを一瞬だけ露わにしながら、右ハイキックが一閃。ゾンビの1体が、蹴り砕かれて飛び散った。
 右足を着地させつつ、神崎サヤカは周囲を睨み、見回した。
 東京郊外の雑木林である。木陰から、直立した腐乱死体たちが群がって来つつある。
 彼らの散大した瞳が、じっとサヤカに向けられる。高校生女子にしては大柄な、凹凸のくっきりとした長身に、欲望の視線があちこちから貼り付いてくる。
 濃紺のブレザーと白のブラウスを、まとめて突き破ってしまいそうな胸の膨らみに。猛々しいまでの肉感が詰まった、左右の太股に。無数のゾンビたちが、ギラギラと見入っている。
 怯みのない眼光で見返しつつ、サヤカは微笑んだ。鋭く整った顔立ちが、ニヤリと不敵に歪む。額に鉢巻が巻かれた、凛とした感じの美貌。艶やかな黒髪は、背中を覆うほどに豊かである。
 神崎サヤカ、17歳。高校2年生。学業よりは、こうして仕事に励む日々を送っている。
「いいねえ……お前ら、実にいいよ」
 全方向から迫りつつある数十体ものゾンビたちに、サヤカは友好的な声をかけた。
 青ざめ腐り始めている者。腐敗が進み、全身あちこちで骨が剥き出しになっている者。腐肉を垂れ下がらせて歩いている者。
 この者どもに己の死を受け入れさせるのが、サヤカの仕事だ。成功させれば報酬金がもらえる。
「見える、見えるぞ死に損ないども。お前らの汚らしい顔1つ1つに¥マークが浮かんでる……不味そうだけど美味しいよ貴様たちはっ!」
 喜び叫びながら、サヤカは踏み込んで行った。ゾンビたちも一斉に襲いかかって来る。
 何本もの腐りかけた腕が、あちこちから掴み掛かって来る。それらを跳躍してかわしながら、サヤカは右足を槍の如く突き込んだ。
 飛び蹴りを喰らったゾンビが、腐肉の飛沫を大量に舞い上げながら倒れた。
 サヤカは着地しながら踏み込み、身を捻り、右拳を振るった。鋭く豪快に弧を描くフック。それがゾンビの1体を粉砕する。
 別のゾンビが、左側から襲いかかって来る。その顔面が、拳の形に凹んだ。サヤカの、左ストレートパンチだった。顔の凹んだゾンビが、倒れて痙攣し、やがて動かなくなる。
「何だ何だ……弱っちいなぁーお前ら」
 ぼやきながらサヤカは振り向いた。振り向いた方向に、右足を突き込む。
 背後から襲いかかって来たゾンビの腹部に、その蹴りがめり込んだ。腐った胴体がちぎれた。
「こんなんじゃ大した稼ぎにならないぞ。お前らの汚らしい顔1つ1つが、さっきまではマイスイート諭吉先生に見えてたのに」
 着地した右足を軸に、サヤカは思いきり身を捻った。力強いボディラインが、竜巻の如く捻転する。美しくたくましい左太股が、スカートを押しのけて跳ね上がる。
 まるで斬撃のような回し蹴りが、ゾンビ2体をまとめて粉砕した。
「今じゃ一葉ちゃんか、下手すりゃ英世……それでもまあ、これだけ数片付けりゃ、そこそこはね」
 まだ大量に群れているゾンビたちの何体かが、腐乱死体とは思えぬ早足で逃げ始めた。
 逃げずに向かって来た2、3体を殴り潰し蹴り砕きながら、サヤカは慌てた。
「あ……ちっ、ちょっと待てコラ!」
 もちろん待つはずもなく、雑木林から逃げ出そうとしていたゾンビたち。
 その1体が突然、砕け散った。胸の辺りから上が完全に消滅し、微かな灰を漂わせている。
『お前らに逃げる場所なんか、もうないんだよ……この世にはな』
 機械越しの、少々くぐもった声。それと同時に、銃声が轟いた。
 逃げようとしていたゾンビがまた1体、破裂し、飛び散りながら灰に変わった。
『……死体損壊作業、開始』
 2体、3体と、ことごとく同じように灼け砕けて灰を吹き上げる。
 黒い平箱、のような大型のハンドガン。その銃口から、微かな硝煙が漂い出す。
 片手でそれを握り構えながら、男はゆったりと歩み寄って来ていた。
 鎧を着た男である。全身を覆う、メタリックシルバーの機械装甲。指先に至るまで、生身の露出は一カ所もない。首から上は武骨な金属の仮面で、その両目に当たる部分では、ゴーグル状のカメラセンサーが淡い光を点している。そんな装甲マスクの内側から、男はサヤカに微笑みかけた。
『無事か、サヤカ……いやまあ無事だろうが、少し手が足りてないみたいだな』
「敬介さん……助けに来てくれるんなら、少しピンチになってりゃ良かったかな」
 サヤカは微笑み返した。そうしながら、襲いかかって来たゾンビの1体を平手打ちで張り倒す。
「まったく……あたしを襲ってくれる男って、ゾンビばっかりなんだよねえ。敬介さんなんて、同じ屋根の下で暮らしてるのに夜這いにも来てくれないんだから」
『悪いが俺は、素手でゾンビを叩き潰すような女だけは御免こうむる』
 容赦ない事を言いながら、御船敬介が引き金を引く。大型ハンドガンが、轟音を発し火を吹いた。
 ゾンビ3体が、砕け散った。大量の腐肉が、飛び散りながら灰に変わる。
『俺がな、こうして血税をたんまり注ぎ込んだ装備を使って、ようやく出来る事をだ』
 右手で大型ハンドガンを握ったまま、敬介は左拳を振るった。機械装甲をまとう拳が、ゾンビの1体を殴り潰す。
『お前は、素手で軽々とやっちまうんだからなあ』
「そりゃあ鍛えてるもの。敬介さんに、死ぬほどしごかれてきましたからっ」
 応えつつサヤカはゾンビを1体、素手のパンチで粉砕して見せた。
「おかげでこんなふうに、暴力でお金稼げるようになりましたあっ。てなわけで一葉ちゃんに英世君たち、覚悟決めてもらおうかぁー!」
『……お前って本当、金の事ばっかりだよな』
「そりゃあ、お金は大事だもんよ。敬介さんと結婚するためにもね。ふふっ、世の中ってのはお金が全て! ……とまではいかなくても、まあ8割くらいはお金だから」
『あとの2割は何だ?』
「んー……何だろ? 何かあるといいなっ!」
 明るく笑いながら猛然と、サヤカはゾンビの群れに殴り込んで行った。

「……と、まあ。以上が、本日の戦闘データ取得結果です」
「装着兵器は期待以上の性能を発揮しているようだが……あれは一体、何なのだ」
「神崎サヤカ、の事を言っておられるのですか?」
「生身の戦闘で、あれだけのゾンビを叩き潰すなど……とても人間とは思えん」
「人間ですよ、あの娘は。この機関で鍛え上げられ育てられてきた……単なる、人間の少女です」
「神崎には確かに、過酷な戦闘訓練を課してきたが……人間、いくら死ぬ思いで身体を鍛えたところで、違う生き物に変わる事など出来はせんよ」
「神崎サヤカが、人間とは違う生き物であると。あくまで、そうお考えですか」
「神崎は17歳……例の試作品がもし生き長らえていれば、今頃そのくらいではないか」
「ご存じでしょう、あれは失敗作として廃棄されたのです」
「廃棄されたはずの試作品が、何者かに庇護されて存命し、何食わぬ顔で機関に舞い戻って来ている……そんな噂があるのだが、どう思う」
「もうやめましょう、神崎サヤカは紛れもなく人間です。人間として彼女は戦い、そして報酬金を得ているのです。金のために戦う……これほど人間らしい事が、他にありますか」
 
 
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