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クリエイター名 |
渋谷成伸 |
サンプル
ケッペン気候区分でいけば、Cf気候に該当するこの 地域にも夏という季節が訪れた。 多くの生物が地表に現れてその生命を謳歌している。 太陽の色もわからないくらいの照りようかと思えば、 雲がかかり、すぐにスコールという何リットルもの 水分が一度に降水したりする。 夏子は軽装のいでたちで、湖に程近い砂浜の上にいた。 バーベキュー大会というのが会社の慰労会に設定され、 その準備に狩り出されていた。会場受付のテント は老いた男性達の手によって組み立てられ その間、彼らを労う茶を支給したり、 慰労会で食されるオードブルや酒屋などの業者のものと 打ち合わせたり、イベント表の準備などを行っていた。 屋台倉が組みあがった頃、スコールが降り出して、 一同はテントの中で雨宿りをすることになった。 めったに現れない人材センターの理事長である岩佐が そのテントにやってきた。 「ああ、こんなに急な雨だからすぐに止むだろう。少し待つとしよう。」 「なんだかお祭りらしくなってきましたね。」 夏子は岩佐に気軽に話し掛けていた。 「ああ、お祭りでなくてはいけないよ。祭るというのは 霊を慰めるという意味なんだ。参加している人たちを労う会なのだからね。」 岩佐は落ち着いた口調で薀蓄を述べた。 しばらくすると その言葉のとおり、雨はすぐに上がり、また日差しが差し込んできた。 砂浜は人口のもので、横は道路になっている。 雨の後のアスファルトは独特の匂いがして、 なぜか夏子はこの薫りが好きであった。 砂浜はすぐに水分を吸い込むことはできなかったが、 予定通り、会は行われた。
時を同じくして、小太郎は自宅にいた。 ひんやりとした土間に足を投げ出して座り、 ぼんやりと晴れたり時雨れたりする外の景色を眺めていた。
<著者作品:小説「アルケミー(錬金術者)」より抜粋>
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