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クリエイター名 |
雨根初居 |
創世神話・ドラマCD
今、私はあなたに語りかけています。私の声が聞こえますか? あなたと私の姿がお互いに見えなくとも、私達は自分が何者であるか、どのような姿をしているかを語ることができるのです。。 何を知っているのかという外からは見えない知識。今日はどのように過ごすのかという未来の予測。自分の心の内も他人に言葉で語ることができますよね。
あなたはそれは当然のことだと思っていますか? ですが、これは奇跡なのです。私達が今、地上をあまねく支配し、大海を手中にし、空を駆け、星すらもその手に掴んでいるという現実は、私達の声によって、生み出されたものだといっても過言ではないのです。
そう、人々が声で語ることの強さ。それは、この世を作った神々が悩み、選択したの末に辿り着いたことです。
今日は、私は創世の神話を語りましょう。言葉は、神の世界の出来事を伝え、神の心を理解させ、神に成り代わって、語ることもできるのですから。
これから語られる世界で……私はこう名乗ります。 「女神ウィストメレア」と 私は今から、あなた達の母であり言葉を初めて紡いだ神を演じます。我々と神と、この世界の馴れ初めを語りましょう……
人々や神々の歴史よりもはるかに昔のこと。 星や生き物はまだ生まれておらず、世界には闇が広がっていました。
そして、いつの日にか、宇宙の中から、湧き出るようにして神々が生まれました。 しかし、彼らは、最初、自分が何をするべきなのか、何のために生まれたを考えたことすらもありませんでした。 ただ、気の遠くなる時間を何もすることなく、仲間の神と共に生きることを喜びとして、存在し続けたのです。
ここまでの話を聞いて、あなた方は神々の姿が気になったでしょう? きっとみんな人間のような姿をしていたのではないか? そう思われるかも知れませんが、実はそれは間違いなのです。 実は、ほとんどの神々が、人間のような姿をしていたわけではありませんでした。 魚のような姿を持った神、竜のように翼と鱗を持った神、獅子のように4本の足を持った神、くちばしと翼を持った神など、彼らはことごとく、姿が違ったのです。
しかし、彼ら一人一人は姿こそ違っていても、本当に神の名に恥じぬ、素晴らしい力を持っていました。 どこまでも世界の果てを見渡す鋭い目を持ち、どんな問題を解決する頭脳を持ち、どんな些細な音も聞き逃さぬ耳を持ち、誰にも負けぬ腕力を持ち、他の神の心を読み取る力を持っていたのです。
知恵に優れ、自分以外の神の心を理解する彼らに争う気持ちなどはなく、神々は大いなる宇宙の中で、心で語り合い、友人として仲よく楽しい時を過ごしていました。
しかし、そんな生活が続いたある日のこと。 彼らの運命を変える出来事が訪れました。
多くの神々を生み出していた宇宙の力が尽きてしまい、新しい神が生まれなくなったのです。
そして、一人の神が、だんだん物がよく見えなくなり、宇宙の暗さを見通すことができず、寒さに凍えるようになりました。
他の神々は大いなる力を持って、その衰弱した神を助けようと、暖かく光り輝く星を作り上げ、彼を暖めて照らしてあげました。 そう。太陽はこのようにして宇宙に生まれたのです。
衰弱した神は、その光によってかろうじて物が見えるようになり、体を温めることができました。 ですが、彼は悟っていました。神々である、自分にも寿命が存在するのだと。
そして、そのことを他の神々に伝えたところ、宇宙では大騒ぎになりました。「死と消滅」の運命を神々も避ける事ができないという事実を彼らは目の当たりにし、恐れはじめたのです。
ですが、神々は宇宙から生まれた存在。その力はとうに尽きてしまい、神々が生まれることはもうありません。
神々が死を直視するようになる間も、多くの神が年老いて消滅して行きました。 そして、ついに死を克服することができないと、諦めた彼らは、自分たちの力で、生き物を生み出し、その生き物たちに神々が滅びた後の世界を任せようと考えるに至ったのです。
最初、神は多くの神と力を合わせて、神の力を持った生き物を創りだそうとしました。 自分たちが神を作れるならば、永遠に神々は繁栄を続け、宇宙を統べることができるのだと考えて。
しかし、それにはあまりにも大きな力が必要でした。 すでに寿命が刻々と近づいている神々が100人集まって一斉に力を集めても、わずか数人の若い神を生むことしかできませんでした。 それどころか、それに力を浪費してしまった神々は寿命をかえって縮めることにつながり、自分たちの絶滅を逆に早めてしまいました。
この問題にぶつかってしまい、神々はまた悩んでしまいました。その悩みが生み出す悲しみは深く、神々は、仲間が次々と力を失って消滅していくことで、寂しさという感情を覚えました。
その感情は、神々にひとつの考えを生み出させました。 そう、神々は自分に似た形の動物を作ることを考え始めたのです。そうすれば、その生き物は自分を理解してくれて、寂しさを忘れさせてくれるだろうと思って。
しかし、すべての神の力を合わせても、神々一人ひとりの姿と力を持った生き物を作ることはできません。
そこで、神々は心を読むこともできず、頭も悪く、目もろくに見えず、耳も殆ど聞こえず、奇跡も起こせない弱い生き物を、自分そっくりの姿でたくさん作るという方法を思いつきたのです。
しかし、自分の姿をした弱い生き物を、宇宙に放すと、あっという間に死んでしまいます。 そして、神々は自分たちが生きている宇宙が動物たちにとっては過酷すぎるとわかり、全ての生き物が生きられる星を、力を合わせて作ることにしました。
海があり、大地があり、森があり、空があり、砂漠があり、川がある、生命が生きるために作られた星。それが地球です。
そして、神々は多くの生命を地球に放ちました。そして、動物たちは神々にできない奇跡をたったひとつだけ持っていました。
それは、同じ生き物の間で子孫を残すことです。それこそが、すべての神々が自分の生き物だけが有利にならないよう、抜け駆けしないように、取り決めた大事な力でした。
海と森と空と大地に住み分けられた動物たちは、互いに争わないと思われていましたが、ひとつ問題があったのです。
食べ物を食べない代わりに、神々が生きるための力を与え続けなければならなかったのです。
ですが、神々も寿命が近づいている中、増え続けるすべての動物たちに力を分け与えることができるはずもありませんでした。
そして、動物たちは他の動物の肉を食べるようになります。これが神々を大いに怒らせました。
自分たちの力を分けた動物たちが他の動物に食べられる。神同士で争いを起こすのも無理はなかったでしょう。
神々は次第に仲が悪くなっていきました。それどころか、自分たちの生み出した動物たちが生き残るようにして、他の神の動物達を殺すように仕向けることすらも普通になりつつあったのです。
まだ自分の動物を作っていなかった、女神ウィストメレアは神々と動物が日夜絶えずに争い続けるその悲しい現実を見て、深く嘆きました。
「このままでは、神々は争って滅び、動物たちも自分たち以外が滅ぶまで戦い続けるでしょう。これでは、私達は何のために動物たちを生み出したのかわからない……生き物が他の動物を食べることを今更止められないとしても、お互いに滅ぶまで争うことはなんとしても止めなければなりません……」
そして、ウィストメレアは考え続けました。何が神々にとって、動物たちにとって必要なことなのかと。
「きっと、動物たちには神と同じような、心を分かり合う力がないからではないでしょうか。きっと、自分以外の生き物の心が理解できれば、争わずに問題を解決するできることがたくさんあるに違いありません……」
そう考えたウィストメレアは、神々に自分の考えを伝えました。ですが、もう神々はそんなことに聞く耳を持とうともしませんでした。自分たちの動物を殺されるという現実は、神の怒りをそれほど燃え立たせていたのです。
神々は、それどころか、ウィストメレアは自分の動物を作ってもいないくせに、そんなことを言えるのか。本当に正しいかは生き残った動物を作った神が決めることだと、神々は彼女を馬鹿にしたのです。
自分の考えが聞き入れられなかったウィストメレアは悲しみました。 自分が馬鹿にされたこと以上に、神と動物たちが争うことを当たり前に考えている現実を嘆いたのです。 ですが、それと同時に、彼女は決心を固め、他の神々に力強く宣言しました。
「私は私の姿をした動物を作ります。そして私はここに予言しましょう。私が作った動物は、海に陸に森に砂漠に空、この星の全てを支配し、全ての動物の頂点に立つでしょう。そして、世界を何度でも危機から救い、いつしか我々の済む宇宙にも飛び立てる、奇跡の力を持つようになるでしょう」
神々は、ウィストメレアの言葉通りになるものかと笑い、まともに話を聞こうとはしませんでした。
そしてウィストメレアは、言葉を語る力を持った動物……人間を作り出しました。それは、牙も爪も翼もヒレもなく、どこまでも弱くて儚い動物でした。神々は人間を見て、すぐ他の動物に滅ぼされてしまうに違いないと大笑いしたのです。
そして、ウィストメレアは、人間に初めての言葉を残しました。 「あなたは神々だけが用いることができた奇跡を一つだけ持っています。他にその奇跡を持っている動物はいません。だからあなたの子供たちはいつか必ず勝ちます。その力を誇り、大切に使うのですよ……」
ウィストメレアの創りだした人間は、他の動物達に一斉に襲われました。 海に入ればサメに襲われ、森を歩けばトラに狙われ、砂漠を歩けばサソリに、草原を歩けば恐竜に……
人間は、自分たちが狙われ続けるという現実を悲しみ、、生きることを諦めようとしました。 しかし、ウィストメレアは、彼らに神の言葉を伝えて励ましました。
「あなた達は、どうして自分たちが悲しんでいるのかわかりますか? それは悲しいという言葉を他の仲間に伝えることができたから。だから、何度でも立ち上がることを誰か一人が考えたなら、その思いをみんなで分かち合うことができる。今は私がその一人になりましょう。さあ、戦いなさい……! 私はあなた達が生き抜くことを望んでいます……! その思いを伝えるためだけに、今、言葉で話しているのです……!」
すると、人は人へ、彼女の言葉を伝え、生きる希望を取り戻しました。 自分に希望を伝える力を残してくれたウィストメレアに何としても恩返しがしたいと。 その一心で、必死に生き抜いたのです。
そして……ついに、人間の強さを見せつける時がやって来ました。 宇宙の変化に地球が巻き込まれ、全ての生命に過酷な環境が訪れたのです。
世界が冷たく冷えてしまうと、食べ物を見つけることができなくなった動物たちは次々と倒れました。
しかし、人間たちはどこに行けば食べ物が手に入るかを教えあい、無駄な力を使うことなく食料を手にしました。 そして、自分たちの家や武器を作ると、その作り方は子供や仲間に教えられ、どんどん知識は発展し、途絶えることがなかったのです。
もう、こうなってしまうと、竜の神から生まれた恐竜は為す術もありませんでした。 大きな身体は食べ物を大量に必要としましたし、情報を持たない彼らは手当たり次第に歩いて、獲物を探すしかありません。 獲物を見つける方法を発見しても、それは仲間にも子供にも伝わることなく、自分だけの知識にしかならかったのです。 恐竜は、ついに力尽きて滅び、小さな身体をした、トカゲや蛇だけがかろうじて生き残ったにすぎませんでした。
恐竜が滅びた後も、獣の神から生まれたトラは、力と素早さに任せて人間を襲い続けました。 しかし、人間はどこからトラが来るかを事前に知っており、その情報は人間全員に伝わってしまい、あっというまに逃げられてしまうのです。 そして、トラたちは、ついに人間を襲うことを諦めてしまいました。
空を飛んでいた鳥も、弓矢を使いこなすまで知恵を身につけた人間たちについに倒されてしまいました。 魚も、網を創りだした人間についに屈服したのです。
ここに、ウィストメレアの予言は真実となりました。しかし、それでは、神々の争いをなくすことには繋がらない。彼女はそのことをよく理解してもいたのです。
神々は、ウィストメレアの創りだした人間が地球を支配したことに、感心するどころか、逆恨みを始めました。ウィストメレアの創りだした人間に、自分たちの動物が敗れたことなど、認めたくはなかったのです。
しかし、ウィストメレアはそんな神々の声を負け犬の遠吠えだと馬鹿にするようなことは決してありませんでした。
「私は約束します。人間たちが世界を守る存在になると。そして、神々の争いを止めるために無くてはならない存在になると。その奇跡を見せて差し上げましょう」
ウィストメレアは、自分の力を用いて、一掴みの小麦と米を生み出しました。そして、それを地上にまいてみせたのです。
神々は、そんなことをして何になるのかと疑問に思いました。以前に食べ物を神が動物に与えたところで、彼らはただ食べつくすことしかできず、力の無駄遣いにすぎなかったからです。
しかし、人間たちは実がなっている小麦と米を見て、一粒だけを口にすると、粒をすべて持ち帰り、人間たち全員で力を合わせて畑を作って作物を植えたのです。
そして、多くの人々は飢えることがなくなり、動物を必要もなく襲わなくなりました。ここに、長きにわたる争いに、ようやく平和が訪れたのです。
「私は、今初めて満足することができました。私はきっと、すべての神と動物たちに希望を与えるために、この宇宙に生まれてきたのだと思います……あなた達になら、神のいなくなった世界を任せられる……期待していますよ……」
ウィストメレアの偉大さにようやく気づいた神々は、彼女と人間たちを讃え、跪きました。 そして、自分の子どもたちである動物が生き続ける地球の存在に、神々は心が癒され、自分たちの死を穏やかに迎える事ができました……
そして、本当に平和な年月が過ぎました。 ウィストメレアから直接言葉を賜った人間たちも、子孫を何代も重ねるうちに、神々の存在を忘れていく。 そして、人々が、永遠に続くであろうと思われるほどの繁栄を手にするまで長い時が過ぎたある日のこと……
ついに、ウィストメレアにも神々の運命である、寿命が訪れようとしていました。
多くの神々がすでに死に絶えている中、ウィストメレアはたった一人だけで宇宙に漂い、自分の生命が尽きるのを待っていました。
「私の使命は終わりました……私の子供たちは神をも凌ぐ力を得たはず……本当に、素晴らしい夢でした……最後に、もう一度だけ、あなた達を……」
そして、ウィストメレアは、最後の奇跡の力を使って、地球に済む人間たちの様子を覗きました。
世界中の人々が、神に感謝の言葉を述べていました。この世界を作ってくれてありがとうと。信仰する神々は、人によって違ったけれど、生きていること、人間に生まれたことを、誰もが喜んでいたのです。
そう。ウィストメレアは決してすべてを忘れられていたわけではありませんでした。 彼女の存在は、人々の中に形を変えて、永遠に残されていたのです。言葉という力に乗せて……
「私は……言葉を与えたことで人々を救ったつもりでした。ですが、今になって……私自身が人々の声に救われたのですね……あなた達は一人一人が小さな神でした。ありがとう……」
そして、ウィストメレアは目を閉じて、その長い生涯を終えました。幸せそうな顔で……
……この神話を信じるかどうかは、聞いているあなた達に任せましょう。
ですが、私は人として生まれたこと、言葉という奇跡を持っていることを、何より誇りに思っています。
私の言葉が未来に伝わった時点で、世界は変わっている。今までとは違っている…… その素晴らしさを、信じることができますからね?
きっと、ここまで話を聞いて頂いた、みなさんは私がこのお話をどうして知っていたのか知りたいと思っていませんか?
そうですね……それはきっと言葉では語り尽くせないでしょう。 そういうことがあってもいいと私は思います……
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