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クリエイター名  新戸青春
乙女ゲー導入風

 資料室から出ると差し込む日差しで廊下の色が変わっていた。
「ああ、もうこんな時間……」
 今日は帰りに本屋に寄ろうと思っていたのに。先生やクラスメイトに雑事を押し付けられて、気がつけばもう夕方だ。
 最近ではこれが私の放課後の過ごし方となってしまった。
 これじゃあ今までと同じだ。せっかく高校に入って少しは変わろうと思っていたのに。
 小学校の頃から、いつも損な役回り。
 私――朝宮紅葉はずっとそうだ。
 掃除当番かわって、とか。これをどこそこに運んでくれ、とか。
 ああしてくれ、こうしてくれと、いつもなにかを頼まれてしまう。クラス委員でも生徒会役員でもないのに。
 いいや、頼まれている、なんていうのは嘘だ。本当は単に押し付けられているだけ。
 確かに最初は頼まれた、と言えるかもしれない。
 けど、二度三度となればどうだろう。それも同じ人から。
 例えば今日、掃除当番をかわった笠井さん。
 外せない用事があるからと言っていたのに、影で友達と遊ぶ算段をしていた。
 いくら私が暇そうだからって、あんまりだ。
 私にだって予定ぐらいあるのに。
「はぁ……」
 だったら断ればいいのに、と思わないでもない。
 でも、断るのが怖い。
 少なくとも言うことを聞いていれば、嫌われることはないから。
 へたに波風立てていじめの的にでもなったらことだ。
 そうなったら、今度は掃除当番をかわるぐらいじゃすまなくなる。
 私ってどうしてこうなんだろう。
 あぁ、もうなにもかもが嫌になってきちゃった……。

 そんな風に鬱々としていたせいか――――

「きゃあ!」

 ――――私は階段から足を踏み外し落ちてしまった。

 時間の流れがひどくゆっくりとしたものに変わる。
 自分が落ちていくのがはっきりとわかった。
 激突するであろう床がはっきりと見える。
 身体を動かせばなんとかなるかな?
 でも、まあいいか。
 この先も、きっと私はこのままだろうから。
 目を瞑り諦観と共に奇妙な浮遊感が私を包む。
 このまま空が飛べそうだ、なんて思えるような奇妙な感覚。
 それも一瞬のこと。
 後頭部が引っ張られるような力を感じ、意識が遠のいて行く。
 これで終わり、かあ。
 もっとうまく、生きたかったな。
 今度はちゃんと、もっと、ずっと………………。


 目が覚めると柔らかな明かりが頭上にあった。
 私、生きてたんだ。頭から落ちたから危ないと思ったけど。
 ここ、どこだろう。病院……かな?
「よお、目ぇ覚めたか?」
 声をかけてきたのはお医者さんでも看護士さんでもなかった。
 短く刈り込んだ赤茶の髪に同色の瞳。たぶん、同い年ぐらいの男の子。服装からしてお医者さんでもなさそうだ。学生服のようなものを着崩している。私の通っていた学校のものではない。とすると?
「えっと……」
 病院でなければここはいったい……?
 上半身を起こして辺りを見渡す。学校の保健室のようだけれど、やっぱり私が通っていた学校のものではない。
「いやー、びっくりしたぜ。なんであんなとこで寝てたんだ?」
 そう言われても。
「んん? や、あんなとこで寝ないよなあ。ってことは気絶か? どっか悪いのか? 病気か? もしかしておまえ病気か? やばいか? どれぐらい?」
 ころころと表情を変えてぐいっと身を乗り出してくる。
「あの、えっと……」
 うぅ、近いよ。ど、どうすればいいの?
「やべえな。やべえよ。どうすればいいんだ?」
 それは私も同じだ。もうなにがなんだか。
「先生いねえしなあ。どうすりゃいいんだよ」
 先生? やっぱりここは学校なのかな。
 でもうちの学校にこんな場所はないし。こんな目立つ男子もいない、はず。制服も違うし。
「ここは、どこなんですか?」
「やべえな。どこなんだろうなあ。どこ――え?」
「ここは、どこなんでしょうか?」
「どこって、学園だろ」
「皆白高校……じゃないですよね?」
「なんだそりゃ。ミナシロコウコウ? ここはイェルグラーエ学園だぜ」
 なんだか舌噛みそう。やっぱり外国なのかな。でもこの人日本語喋ってるし。緊急搬送された大学病院みたいなもの……とか?
「ここは日本ですよね?」
「ニホン?」
 ホワイ? という感じだ。
「国の名前です」
「ここはティーティアだ。そんなだせえ名前じゃねえよ」
 ティーティアなんて国聞いたこともない。雰囲気的に英語っぽいけど、イェルグラーエは独語っぽいような。
「あの……」
「おーっと、次はオレの番だ!」
「はい、どうぞ……」
 気圧されてついそう言ってしまう。
「なんであんなとこで寝てた?」
「あんなとこ……とは?」
 階段の踊り場のことかな。まあ寝る場所ではないですよね。
「学園の葉香樹の下に決まってんだろ? あそこは立ち入り禁止ってことぐらい知ってんだろ?」
 決まってないと思う。知るはずもないし。でもそんなこと言えるわけもなく。
「わ、わからないです。私階段から落ちて、それで目が覚めたらここに……」
「ぁあーン? 階段から落ちてあんなとこまで飛ぶかっつーの!」
「そうではなくてですね、あの、その」
 どうしよう……。なんで怒ってるのかな。
 うぅ、誤解なのに。
 誰か助けて。
 そんな願いに応えるように戸が開いた。
「なにを喚いている。廊下までまる聞こえだぞ、アル」
 現れたのはまたも学生風の男の子。青みがかった黒髪にきっちりと襟元を締めた服。マンガに出てくる生徒会長みたいだ。
「いやいやそれが、この――」と言って私を指差す。
「この?」
「このぉ……誰だっけ?」
「君は?」
 静かな声で問いかけられる。赤茶髪のアルくんとは別種の怖さだ。
「朝宮紅葉です……」
「アサミヤモミジ? その髪の色どこの国の出身だ?」
 私はごく普通の黒髪だ。青みがかってもいないし、どこにだっている標準的日本人。
「えと、日本の東京です」
「ニホンノトウキョウ? 聞いたこともないな」
 そんな……日本語通じてるのに。
「で、でも日本語ですよね。今喋ってるの」
「そうなのか? グレイ」
「そんなわけないだろう。ティーティア皇国はおろか世界各地で用いられてる言語だぞ」
「だーよな。ってことはこの、アサミヤモジモジは嘘をついてるってことだろ! 飛ぶわけねーんだ!」
 モジモジじゃないです。
「いや、そうとも限らない。嘘ならもっとうまくつくはずだ。バカでなければ」
「じゃ、バカだよ!」
「それはおまえだ。その短絡的思考をどうにかしろ」
「んだとぉ? できたらとっくにしてんだよ!」
 私の存在なんかすっかり忘れてしまったかのように二人は言いあいを始めてしまった。
 大きな声にはびくりとするけど、見知らぬ男の子が言い合う光景を不思議と今は怖いとは思わない。
 普段の私なら縮こまって、嵐が過ぎるのを待つだけなのに。
 どうしてだろう?
 私は縮こまるどころか、二人のやりとりに聞き入っていた。
 眉をひそめたくなる言葉の応酬も、テンポのいい楽曲を聞いているような心地よさがある。
「だったら前も言ったとおり思いついたことを端から口にするのをよすんだな」
「だから、それができないからどうにかする方法を考えろってんだよ!」
「だいたいおまえはいつも――――」「そういうてめえもだな――――」
 ああ、そっか……。
 仲いいんだなあ、この二人。
 相手の言葉には必ず、過去がついてまわっている。
 なんだかとってもうらやましい。
 こんな風になんでも言い合えて、きっと喧嘩もするんだろうけど、いつの間にか仲直りして。
 そうやって繰り返してできた関係って気がする。
 私にはない。
 でもそれは当たり前だ。
 だって私は人とぶつかってこなかったから。
 状況に流されて、ただ頷いて。
 嫌だというのが怖くて。
 こんなふうに、誰かと過ごせたら……。
「お、おい。そんな顔すんなよ。悪かったって! ほんとだよ! な? ごめん!」
 え?
「疑って悪かった! おまえは飛んださ。ああ、飛んだ。だから樹の下にいたんだな、うん」
 いつの間に言い争いが終わったのだろう。アルくんはまたもころころ表情を変えながらしきりになにかを納得している。
「すまない。モジモジくん、こいつは口も顔も態度も何もかも悪い奴だが、そんなに悪い奴でもないんだ。許してやってほしい」
 なにもかも悪いのにそんなでもないって……もう言ってることめちゃくちゃだよ。
「ふふっ」
 でもなんだかとってもおかしくて。
「あははっ」
 私は笑いを堪えきれなくなってしまった。
 もう目じりに浮かんだ涙がどうしてできたのかなんてわからない。
 ただお腹を抱えて笑って、ちょっとだけ出た涙を拭った。
 
 
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