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クリエイター名 |
KOALA |
サンプル
●月面庭園(一部抜粋)
平和だ。 今日も平和だ。 明日も、たぶん、平和だろう…。
ここは、そんな毎日が続く桃源郷。 【月面庭園】は、降り注ぐ健康的な太陽の光を浴びて萌えるような緑の臭いを充満させている。 地平線の彼方までグリーン一色で彩られた草原に、いつものように温かく気持ち良い風が吹く。朝露に塗れた草花の雫があちこちでキラキラと輝き、鳥たちは軽やかな旋律でワルツを歌い、時たま吹く暖かな風が、その旋律にアクセントを加える。 この光景を見た人は、一瞬、ここは楽園だと思うかもしれない。 そんな願望を抱く下界の者達は、しかし、ここの場所に来くることはできない。 行きたくても、行けないのである。
なぜか?
この夢空間は、遥か頭上に輝く月面にあるのだから…。
古来より、人間は空に輝く月を見上げ、様々な想いを巡らせてきた。 月には兎がいるとか… 舞踏をしている婦人がいるとか… 大きな蟹がいるとか… そういった飽くなき想像が、人々の間では尽きなかった。 そして、そのどれもが殆ど滑稽な空想にしか過ぎなかったのだが、月はそのような神秘的な存在感を人々に与えていたのである。
話を戻そう。 月面庭園は、見渡す限りの広大な平野に、草花や樹木が生い茂っている。 その種類は数千万ともいわれているが、定かではない。 だが、ここの植物は、驚くかもしれないが、全て一人の「神」によって創成されているのである。 その「主」は、この庭園のほぼ中央に、白い壁と細密なゴシック建築で建てられた、大きな御屋敷に住んでいるのだ。 では、舞台をそこに移してみることにする。 鳥が囀る声を聞き、屋敷の前にある噴水から湧き出た水が、庭園に張り巡らせた水路へと流れていくせせらぎを感じとり、彼女は目を瞑って、いつものように大きく深呼吸をした。小さな靴のつま先をピンと立て、両手をこれでもかと言わんばかりのしなやかさで高々と上げ、
「う〜……んッ。気ッ持ちいい〜」
と、満面の笑みを浮かべながら、青い瞳を輝かせる美しき女性がいる。 肩まで垂れ下がった亜麻色の髪が、なんとも麗しく、爽やかな香りを仄かに 放っていた。 彼女の名は、セレーネという。 この庭園の主であり、月面王国の王女でもあるのだ。
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