|
クリエイター名 |
KOALA |
サンプル
●Le vent souffle(一部抜粋)
空……… 空、空、空、空………
蒼……… 蒼、蒼、蒼、蒼………
どこを向いても空が続く、蒼い空間。 どこを見回しても蒼が続く、無辺空間。 それが、地上から遥か頭上に展開している天空界の光景。 実に平面的な立体世界だ。
が、その青いキャンバスに、ポツリと黒い一点が染みでてくる。 拡大して見てみると、そのシルエットは徐々に形を整え、やがて巨大な鯨の形になった。 クジラ…とは、海に棲息する巨体ホ乳類のはずだが、なぜか空を飛んでいる。あろうことか、「彼」は頭から水を噴出せず、その代わりに白い煙をモクモクと吹き出しているのだ。
ここは高度五〇〇〇メートルを優に越える天空界。 一日中、激しい気流が渦巻く領域だ。 空を住処とする鳥達ですら訪れることのない生活圏である。 ましてや、海洋に棲息する動物がここまで自力で来れる可能性は、完璧なゼロ…。
あれは一体何なのか。
大自然の摂理を堂々と無視し、その巨大クジラは見計らったように宙に停止するや、その大きな口をあんぐりと開ける。
「グォォォ〜〜〜〜ン」という雄叫びと梵鐘の鯨音を混ぜ合わせたような重低音を発すると、そいつは勢いよく周囲の気流を吸い込み始めたのである。 餌になるようなモノは、この場にはないのに…。 ただ気流に乗った空気だけを着々と吸い込んでいるのだ。 彼は一体何の目的でその空気を吸い込んでいるのだろうか。 そんな些細かつ単純な疑問をも無視して、そのクジラは懸命に吸い込み続ける。ただひたすらと、吸い込み続ける。 黙々と、黙々と…。
小一時間ほど空気を吸い込んだ彼は満足したのか、巨大な口をゆっくりと閉じる。その表情は無機質そのものだが、どことなく満腹の感を漂わせているのは、こちらの気のせいか…。 朧気ながら再び重低音の咆吼を上げると、彼はゆっくりとその場から動き出した。
それにしても、常識を覆すこの巨大な怪物体は、いったい何なのか。 だが、安心してもらいたい。 これは、生物ではない。 ましてや怪物でもない。 クジラ型の飛行船だ。 船名を「セッテベロ号」という。 【風商人】の象徴たる「ヴォル・ポワッソン(空飛ぶ魚の意)」級の立派な飛行船である。
|
|
|
|