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クリエイター名 |
伊那和弥 |
サンプル
ガイアの牙 2 <SF スペースオペラです>
プロローグ
エルマイネ自治国とバダフシャーン自治国の間には、幾つかの隕石群が横たわっている。その隕石群の中には、鉱石が大量に採れる小惑星「クグール」がある。ほとんど無人の鉱石採掘惑星だが、それでも300人からなる労働者が住んでいる。 その、隕石郡の彼方に……赤黒い、巨大な物体が浮いていた。全長100メートルはありそうなそれは、宇宙船と言うには少し妙な所があった。細長い葉巻型をしており、その先っぽには穴が空いている。そこから垣間見える内部は、赤い光で満たされている。特にこれといった推進装置が見当たらず、この奇妙な物体の側には4隻からなる小型の宇宙船が、物体を保護するかのように漂っていた。 その物体が、ついっと微かに動いた。 と見るや、突然それは強烈な光を放ち、目も眩むばかりの光の流動体が一直線に何処かへと放たれた! 一瞬の出来事であった。 あっと思う間もなく光は消え、彼方で恐ろしい爆発が起こった。4隻の船はしばらくそこで状況を見ていたようであるが、やがてその巨大な物体を曳航して行き、どこへともなく消えて行った。
第1章
中央政府領の惑星「フォルド」は首都星にも近く、気候も温暖で緑が多い、豊かな自然と科学の調和がとれた惑星である。 フェリサ・マッカローナはあの忌まわしい「ガイア」事件の後、引っ越しをしてこっちに住んでいたのである。学校も転校していた。 あれから1年余り……明日はもう、卒業式である。 「ちょっと遅くなっちゃったなぁ……」 フェリサは、家へと急いでいた。 午後8時。 友達とちょっとお喋りをしていたら、もうこの時間だった。辺りは日も暮れ、随分暗い。街明かりはついているが、ちょっと路地へ入れば真っ暗だ。 急ぎ足で歩く。 コツコツという音が響く。 この時間帯にしては、意外と出歩いている人が少ない。ビル街の真ん中ではこんなものか……しかし、近くにはフェリサの住む住宅街だってあるのだ。 フェリサの胸元にはペンダントがあった。パパの形見、である。 幾つかの道を曲がった時…… 突然、向こうから走って来る車のドアが開いたと思うや、そこから伸びて来た逞しい腕に、フェリサは捕まえられた! 「なっ!?」 叫ぶ間もなく、フェリサの腹部にレイガンのひやりとした感触が伝わる。 「静かにしろ」 男はそう言って、小さな噴霧器をフェリサに向かってはなった。 それを一息吸うと、急激に目眩がして来た。 辺りがとろんとして来て、何だかもう何もかもがどうでもいい気がして来る。このまま寝てしまったらどんなに気持ちがいいだろう……うっとりとした表情で、フェリサはそう考えた。 景色がぐるぐるぐるぐるとまわっている…… 「いやあっ!」 フェリサは、自分の腕をつねって強引に目を覚ました。 「こいつめ!」 男が、フェリサに向かってレイガンを放つ! しかしフェリサも「ガイア」事件以来用心して多少格闘術も習っている。男の股間を素早く蹴り上げ、レイガンを弾いた! レイガンは窓ガラスを撃ち抜く。フェリサはその窓ガラスに身を当て、外へ転げ落ちた! どすん! と尻から着地する。 「いったぁ〜い!」 立ち上がって、腰をさする。 だが、そんな事をしている余裕はなかった。先程の車が引き返して来て、フェリサに迫って来たのだ! フェリサは必死に逃げた。 狭い、車の入って来れない路地へと駆けて行く。 とにかく逃げるしかない。 駆けて、駆けて、もう何時間も経ったように思えた。息も切れて、さすがにもう誰も追ってこないな……と足を止めた時! 目の前に、身の丈2メートルに届こうかという黒服に黒ズボン、サングラスの大男が、フェリサを待ち構えていた! 「お嬢さん、大人しくしな」 大男が、つかみ掛って来る! 「いやあっ!」 大男の手を、ぐっと内に入れて思いっきり投げ飛ばす。 大男は声も上げず、吹っ飛んだ! 「……あれっ、やっちゃった……」 何て言ってる間もなく、フェリサは走り出した。 後ろで、頭を振って大男が起き上がる。チラッとそっちを見て、フェリサは更に加速した。疲れたなんて言ってられない。 フェリサは、いつの間にかどこだか分からない路地を走っていた。後ろからは大男が追って来る。幸い、こっちの方が速いようだ。何とか逃げきれそうだった。しかし……事態はそう簡単に運ばなかった。 ハッと気が付くと、路地の向こう側からも、同じく黒づくめの痩せた男がこちらへ向かって来ているのだ。 フェリサは思わず立ち止まった。 前からも後ろからも男が迫って来る! フェリサは、路地の間にある建物のドアを引っ張って見た。 駄目だ……開かない。 男達が、迫って来る。 「駄目で元々よね……」 フェリサは、出来る限りの力を振り絞ってドアを引っ張った。 ギ…ギギ……ギィ…… 軋んだ音を立てて、ドアは開いた! フェリサは急いで中に入ろうとした。が、急ぎ過ぎて、思わず転んでしまった! 「いったっ!」 後ろから、男達が追って来る! フェリサは痛みをこらえて起き上がった。 「っつー……」 左足を押さえる。 どうやら、捻挫してしまったようだ。だが、敵は待ってはくれない。 フェリサは痛みをこらえて、走り出した。左足がずきずきする。しかし、庇いながら走るわけにも行かない。後ろから、ガチャンという音が聞こえた。男達もこの建物の中に入って来たのだろう。 フェリサは、再び駆けた。 ここは、どこだろうか?
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