|
クリエイター名 |
it |
コメント |
|
サンプル |
サンプル1
からんからん、と来店を告げる音が頭上で響いた。耳心地のいいその音が、すっと鼓膜を通して体に通り、馴染みの店に来たという安心感が湧き上がった。そして、それを感じ取ると、今度は緩やかに流れるクラシカルなミュージック。のんびりとも、ほんわかとも違う、独特の落ち着かせる音が店内に響き渡っている。 くるりと周囲を見渡すと、やや見慣れた顔、といっても、言葉を交わした仲というほどでもない。みな、ここには一人の空間を、あるいは気心しれた相手とゆっくり、ゆったり、静かにひと時を過ごす場を求めてきている。それを邪魔する無粋なことは中々できない。だから、ここには話し声があっても、他に迷惑をかけるほどでもなく、誰かが作業する音がしていても、それすら心地よくなるような、そんな場所だ。不思議とそんな思いに満たされてしまうのは、ここが特殊な思い入れがあるのもそうだが、なにより、みな、ここではお互いに気遣いあっているのだ。日々に癒しを求めてきたやつが、そこで不機嫌なっちゃ意味がない。それをわかるからこそ、自然と気遣いってのは生まれていくもんだ。 と、誰にでもそんなことを考えつつ、いつも自分の座る席へと歩みを進めてゆく。 顔なじみに軽く手を上げて挨拶を交わしつつ、この小さなカフェ、そのカウンター席の壁奥から3番目。なんとなく気に入って、以来ずっと座り続ける場所だ。例え周囲に人が座ろうとも、ここが空いているのなら、かならず使ってしまう。そんな場所。 そこに腰掛けて、持ち込んだ小説を開きながらコーヒーを一つ頼む。きちんとした苦味が聞いていて、香りも豊かなそれはお気に入りだ。 それを待ちながら、読み物の世界へはまり込む。緩やかにメロディーが渡りゆく空間でのこれが中々、癖になる。
|
ホームページ |
|
|
|
|