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クリエイター名 |
ふーもん |
あなたの心にクーデター
この世には天使もいれば悪魔もいる。 善もあれば悪もある。 しかし超ロリータエンジェルな美少女はいてはならない。
それが俺――立川鶴来(たちかわつるぎ)が勝手気儘に決めた戒律。 そして彼には不動のパートナーがいた。 その名も紅葉阿斗(くれないはあと)。つるぎの戒律を破る超ロリータエンジェルな美少女だ。 しかしつるぎは彼女に逆らえない。と、言うのも彼はこの美少女に恋をしてしまったからだ。 だが、しかしこのロリータエンジェルはどこ吹く風。そんな事おかまいなしに我が物顔で今日もこのどこでもない世界でつるぎをこき使う。 そして彼女には秘密があった。つるぎだけにしか教えていない。2人だけの秘密。そして唯一残された確かな記憶の残滓。
この世には天使もいれば悪魔もいる。 善もあれば悪もある。 しかし超ロリータエンジェルな美少女はいてはならない。 そして付け加えれば、世界は2つ以上あってはならない。1つでなければならない。
「ほら、行くよ! いつまで寝てんの? この駄犬!」 俺の通っている高校のクラスメイト。それもとびきり可愛い女子の悪罵が今日も耳朶を打つ。放課後を告げるチャイムは既に鳴り終えていた。 「駄犬言うな。駄犬。しかも眠ってねーよ。少し憂鬱な気分に陥ってただけだ」 仕方なしに俺は抵抗を試みる。こいつに駄犬呼ばわりされて黙ってばかりいる俺じゃない。 「ハハーン。何? あんたにも悩みの1つや2つあるってーの? ぜひ聞かせてほしいわね」 そりゃ、お前の存在だ。俺は即答したかったがこの出生地が謎に至るバカに言っても仕方がない。言うまでもなくこいつが通称――紅葉阿斗(くれないはあと)。 ストレートで艶のある光沢を宿した金髪のブロンドに煌びやかな容姿端麗のどこか精緻な顔立ち。しかも瞳は透き通る様なエメラルド。 身長147センチ。これで日本語を喋っていなかったらどこぞのリトルグレイがこの殺伐とした鬱蒼のコンクリートジャングルin東京に機密諜報員として派遣されてきたか分かりゃしない。 仕方なしに俺は答えを保留しつつはぐらかす。 「また今日も探検か。もう自分の名前くらい自分で思い出せ」 「思い出せないから探検するんでしょ。それとも何? 私と一緒にいたくない?」 俺は今日も盛大な溜め息を吐いた。
俺が紅葉阿斗(くれないはあと)と出会ったのは何も数奇な運命が左右したとかそんなんじゃない。 彼女は俺のこの通ってる高校の2−C組に突如として転校生と言う名目でやって来た。 外人の様な美貌に背丈は日本人の平均身長のそれを下回る全てが謎に満ちた存在。 しかし、彼女は重大な発言をする。他でもない俺だけに。たまたま席が隣になったというだけの理由で。 「私には本来の記憶がないの。つまり紅葉阿斗(くれないはあと)は偽名。そしてこの学校のどこかにあるもう1つの世界の入り口にそのヒントは隠されている」 「――は?」と、俺。 「つ・ま・り。私は別世界の住人だって事。世界の改変はもう起きている。私は自分の記憶を取り戻す――いや、本名を探す為にここへと潜り込んできた」 突然の宣告だったがあまり理解出来ない話でもなかった。何せ彼女の容姿とその名――紅葉阿斗(くれないはあと)はあまりにも不釣り合い。 俺は半信半疑に聞いてみた。後悔先に立たずがジャストミートしたのは言うまでもなかったが。 「――んで? その記憶を取り戻し、本名とやらを思い出す手段は?」 「そうね。人の縁(えにし)とやらに潜んでいる怪物を倒してそこから解放される謎空間。『デルタミステリア』を組み替えて世界を1つにする」 「それを俺に明かした理由――あるいは動機は?」 「人の縁(えにし)とやらに触れてみたかった。ジョーダン。下僕が欲しかったのよ。人は1人では生きていけないじゃない?」
そして本日、ターゲットにされたのは他でもない。クラスメイトの少女。その名は葉菜田美空(はなだみく)。栗色のショートボブカットが似合う至って健全な少しおとなしい少女。 紅葉阿斗(くれないはあと)事、ハートの標的になるなんてかわいそうな奴。しかし事態は一刻を争う。彼女の縁(えにし)には強大な魔物が潜んでいるのだから。 縁(えにし)とは本来、人と人をつなぐ絆の事。そこには悩みや葛藤が山ほどある。そしてそこに怪物なるものが宿ってるのだ。 「ねえ。葉菜田さん? あなた今、何か悩んでるの?」 「え? どうしてわかったの? 急に」 明らかに困惑気味の葉菜田さんを尻目に見て俺は本日2度目の溜め息を吐く。しかしその次の瞬間、もう1つの世界の扉とやらがいきなり出現した。『デルタミステリア』だ。 「へえ? 向こうからやって来るとは上等じゃない」 『デルタミステリア』なるモノはこの扉の先にあるもう1つの世界の断片をいわばパズルのピースをつなぐために人々の心の中に巣食う。そしてそこには守護神『ガーディアン』が必ずいる。 「今回の『ガーディアン』はあいつね」 「ヘイヘイ。わっかりましたよ。やればいいんでしょやれば」 『ガーディアン』はおとなしい少女の葉菜田さんとは似ても似つかない強靭な肉体を持った四肢をもつケンタウルスだった。ただその勇ましい姿は少し賢そうにも見えた。 ハートはこの『デルタミステリア』の先にある謎世界からやって来た異分子。つまり人の縁(えにし)に潜む悩みや葛藤を武器や防具に変えて戦う事が出来る。 俺はハートのサポート役だが、ただの人である事に変わりはない。 因みに葉菜田さんは己の縁(えにし)から出現したケンタウルスを見るともなく脱力状態。気絶していた。俺は彼女の身体を支える様にして安全な場所へと運ぶ。 『デルタミステリア』にはその名の通り3つの戒律があった。今の所は謎だが、それを解く鍵はこの世界の改変にある。 ハートが手にした武器はクロスボウ。そしてそこから流れ込んでくる葉菜田さんの悩みや葛藤。感情そのものを己の縁(えにし)とシンクロさせて守護神であり『ガーディアン』のケンタウルスに撃ち込んだ。 「グオオオオ!」ケンタウルスのうめき声が木霊する。そしてここからが俺の出番。即座に俺は己の縁(えにし)に宿ったあちら側の世界の断片。パズルのピースをつむぐ。 『デルタミステリア』の解読! そう。これは人ではないハートには理解出来ない。つまりこれが俺の役目。 「3つの戒律の謎が解けた! 答えは『悲』『憎』『愛』だ!」 「なーるへそ。お蔭様で新必殺技が閃いたわ! 喰らいなさい! 怪物!」 そう言った瞬間、持っていたクロスボウに不可思議な力が宿る。人の縁(えにし)の業。『デルタミステリア』を看破する唯一の策。 『悲』によりそれは時に他人に優しくなれる。 『憎』によりそれは時に他人を傷付ける。 『愛』によりそれは時に他人に勇気を与える。 その感情とハートの感情がリンクした時、クロスボウは更なる進化を遂げた。いや、本来の姿を取り戻した。 「私に何か用かな? お嬢さん」 そう。守護神『ガーディアン』は必ずいる。何も敵さんにだけとは限らない。しかしこちらは即席の助っ人程度だが。 「私を乗せて。必ずあいつを倒すから」 「お安い御用」 ユニコーンの様な姿をしたそいつは相手のケンタウルスそっくりだった。それは恐らく葉菜田美空(はなだみく)の心を両方とも左右しているからだろう。 だが、こちらには優秀な戦闘員がその背に乗っかっている。鬼に金棒とはこの事だ。 ハートはもう一度、葉菜田美空(はなだみく)の縁(えにし)を手繰り武器を創り出した。今度は彼女の身長を軽く超える長槍。 そしてこの『デルタミステリア』の中でゆっくりと渦巻く葉菜田美空(はなだみく)の感情『悲』『憎』『愛』を避雷針の要領で囮に使い長槍を天高く掲げて自我の心中で祈る様に縁(えにし)を手繰る。 するとそこにまるで全エネルギーを集中させたみたいなパワーが収縮と膨張を重ね、うねりうねって電光石火の如くハートの全身に降り注ぎ貫いた。 言うまでもなくそれは葉菜田美空(はなだみく)の感情の塊。それを己の縁(えにし)あるいは全身で受け止める。 「もう1度言う。喰らいなさい! 怪物! 『光命の突撃』!」 「グオオオオ!」今度こそケンタウルスは倒れた。こうして彼女、葉菜田美空(はなだみく)の『デルタミステリア』は開かれ、その先の世界。 ハートの本来の記憶があるはずのパズルのピースはまた少しだけ繋がった。
葉菜田美空(はなだみく)の悩みとは交友関係にあった。彼女には好きな男の子がいたが彼女の親友もその男の子が好きだったのだ。三角関係と言うヤツだ。 それが発覚し、しかしその異性の男の子は親友の方を選んだ。葉菜田美空(はなだみく)は自分の本心をひたすら隠し恋よりも友情を選んだ。 だが、自分に嘘は吐けなかった。徐々に彼女の中にはどす黒い感情が芽生えてやがて『デルタミステリア』が己の縁(えにし)に宿った。 『悲』『憎』『愛』はそんな彼女の嫉妬心だった。しかしその感情をハートが爆発させたお蔭で彼女の心にもう迷いはない。 彼女には新たな目標が出来た。それは親友を見捨てず支え、いつの日かその親友を追い越せるくらいの魅力的な女性になりそんな自分を好きになるという事。 もちろんそんな本心をひたすら隠し続ける事に変わりはなかったが。
だが、そんな事知ってか知らずか今日も我が物顔で自分探しの旅に出る謎の異星人がいた。その名は紅葉阿斗(くれないはあと)。そしてそれに従順に従う俺。 「ほら! ぼさっとしてないで! 行くよ! 駄犬!」 「ヘイヘイヘイ。わっかりましたよ」
この世には天使もいれば悪魔もいる。 善もあれば悪もある。 しかし超ロリータエンジェルな美少女はいてはならない。 そして付け加えれば、世界は2つ以上あってはならない。1つでなければならない。
最後にもう1つだけ。この世界は失ってはならない。なぜなら超ロリータエンジェルな美少女とやらがいるからだ。(了)
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